蝋燭がゆらりと揺らめき、ティムの顔に不気味な影を作った。

「その人『助けてくれてありがとうございました』ってそのまま去って行ったんだよ。でも血だらけだったから、慌てて追いかけたんだけど……どこにもいなくて……。かわりに古びた花束が置いてあったんだ…。後から調べたら、その人5日前に路地裏で死んでたんだよ」
「ざけんな!!ガチで怖い話はやめろ!!」
「お、お前、こんな、く、下らない話でビ、ビビってんのかよ!?」
怒り叫ぶジェイソンに対して、ダミアンは強がってみせたが、その手は隣に座るディックの服をしっかりと握っていた。ディックがニコニコと笑いながら口を開いた。
「まぁまぁ、じゃあ僕が少しマイルドな話をしようかな」
「マジなのはやめろよ」
「前に住んでたアパートのことなんだけどね。寝てて、嫌な感じがしたから枕元の電気をつけようとしたら、電気が付かなくて、何度かスイッチ押してたら電気が付いたんだけど、すぐ横に女の幽霊が立ってたんだ」
「ぎゃああぁあ!!!!」
ティムが冷めた目でジェイソンを見た。
「五月蠅いな。それでどうしたの?」
「それがね『わっ!!』って驚いた瞬間、目が醒めたんだよ。つまり、それ自体が夢だったわけ。それでね、実際に電気つけてトイレに行こうと思ったんだけどね、なんとスイッチが付かなくて…。次の瞬間、甲高い耳鳴りと寒気がしてヤバイって直感したら、壁の向こうからダンダンダンダンって凄い勢いで叩く音がなって…」
「ぎゃぁああああああ!!もういい!!もうやめてくれぇええ!!」
「だからジェイソン五月蠅いって、続きは?」
「僕もさ、びびっちゃったんだけど、目を閉じて耐えてたら音が止んでさ。ほっとした瞬間、耳元で舌打ちが聴こえて、電気が付いたんだ。おっかなびっくり目を開けたんだけど幽霊はいなかったよ。一体なんだったのか未だに謎なんだけどね」
ダミアンが目を大きく見開いて、ぶるぶると震えていた。
「ダミ、どうかしたの?」
声も出せなくなったダミアンは、ふるふると首を横に振っただけだった。
「ジェイソンは怖い話ないのかい?」
「そうだな……。俺が生き返ったことかな」
「たしかに…」
ティムがそう言う一方で、ディックはニコリと笑った。
「それってハッピーな話じゃないか!」
「っっ!」
ジェイソンが泣き出しそうに輝く瞳でディックを見た。キラキラという効果音が飛び交う二人の間を裂く様にティムは手を叩いた。
「はいはい、いちゃこらないの」

その時、部屋に射し込んでいた月明かりが途絶えた。窓ががたりとなり、みな「ひっ」と身を縮ませた。

「やぁ!」
「ス、スーパーマン」
「みんな楽しそうだね」
「っていうか、真夜中に人の屋敷訪ねるなんて、さすがですね」
ティムの嫌みを笑顔でかわし、クラークはみんなの輪に混ざってきた。
「怖い話をしてたんですよ」
ディックが説明すると、クラークは天井を見ながらそうだなぁと首をひねった。
「僕も不思議な体験ならしたことあるよ。助けてっていう声が聞こえるから向かったら誰もいない墓地だったとか、クローゼットの隙間に真っ赤な人がいるのをたまに見たりとか、夜中寝てると部屋を歩き回ってる足音が聴こえたりとか」
「それって確実に連れ帰ってきちゃったんじゃねーのか?」
「え?誰を?」
「誰って、幽霊ですよ…」
「えぇえぇええ!!?そんなの考えたこともなかっよ。怖いなぁ」
「今更……」

きぃいぃ

「「「っっっ!!!?」」」
「皆様お揃いで何を…。あぁ、ケント様でしたか。窓が空いたのでセンサーが働きまして。屋敷の警備で参りました」
「わぁあ、すいません!」
「ねぇねぇ、アルフも参加してよ!恐い話してるんだ!」
ディックに手招かれ、アルフレッドは輪に入ってきた。
「そうですねぇ…ウェイン邸には今はもう使われていない部屋がいくつも御座います。そのうちの幾つかは使われないのではなく、使ってはいけないのです。不用意に入れば、深夜、この世のものではない何かが迎えに来るという伝えが。ちなみに、この部屋もいわくつきの一室です」
「え……まじで?!」
「連れ帰ってしまうのはどなたでしょうね」

がちゃ

「「「ぎゃーーーっっ!!!!!!!」」」

「何をしている、もう寝ろ」
駒鳥達がアルフレッドやクラークに抱きついている光景を目の当たりにし、ブルースは呆れを含んだ溜息をこぼした。
「ブルース!バットマンの出動は?!」
「昨日大きな事件が解決してからゴードンがパトロールを強化してる。というか、お前ここから侵入したのか。うちの子達に何もしてないだろうな」
「どうして窓の鍵をがっちり閉めちゃうのさ!物理的に壊して入るなんて失礼なことできないよ!」
「深夜に人の部屋に勝手に進入しようとする時点で失礼極まりない。ほら早く散ろ。帰れ。お前らもだ」
「えーーーっブルース無理言わないでよ。怖くて帰れないよ」
「皆様、屋敷に各々の部屋がございます。手入れもしていますので、そちらでどうぞ。ケント様はゲストルームをご使用下さいませ」


各々別室にて過していたが、最初に耐えきれなくなったのはディックだった。彼はブルースの部屋の扉をノックした。
「ブルース一緒に寝てほしいな」
「断る」
「だって怖いんだもん」
「しっかりしろ」
しょんぼりとディックが帰ってから数分後、訪れたのはティムだった。
「ブルース…」
「言いたいことはわかる……ディックのところに行ってあげなさい。あの子も怖がっている」
「…わかった」
その数分後、ジェイソンもブルースの部屋の前まで来たが、ノックをすることがどうしても出来ず、しぶしぶ通り過ぎて行った。それから少しして…
「やぁ、ブルース」
「帰れ。気安く触るな」
「…いいだろ?」
「よくない。特に今晩は子供達が来ている。お前の相手をする気はない。メトロポリスに帰れ」
ぴしゃりと宣言された上、クリプトナイトが入っているケースを見せられ、クラークは泣き真似をしながら空へ飛んで行った。
いい加減に眠らせろと愚痴を突きながらベッドに入ったブルースは、またしても叩かれた扉にうんざりした。明らかに機嫌の悪い顔で乱暴に扉を開ければ、そこには最も幼い息子がいた。
「父さん……」
ブルースは目を閉じ、溜息を零した。そして凶悪だった自身の表情を和らげると「仕方がない」と呟き、ダミアンを部屋に招き入れた。途端、廊下の端からドタドタという掛け足が近づいて来た。ディックと、ティムと、ジェイソンだった。
「ダミアンずるい!」
「まだ子供だ。というか、お前ら物陰から見てたのか」
「僕らだってブルースの子供だ!!こうなったらみんなでブルースの部屋に泊まろうよ!」
ぎゃーぎゃー騒ぐディックの声に、ブルースは眉間の皺を濃くした。
「そんなにベットは広くない」
「じゃあ、密着すればいいだろ!背の順番にしたら収まる!ブルースを僕を抱えて、僕がダミアンを抱えて…」
「ちょっと待ってディック。間に飛ばしてる。あんた、どんだけ盲目なんだよ。背の順番なら、ブルース、ジェイソン、ディック、ぼく、ダミアンじゃん」
途端、ジェイソンが「なっ…俺は嫌だぞ!」と反射的に声を上げた。
「ジェイ……」
何とも言えないショックを受けた表情を浮かべたブルースを前に、ジェイソンは慌てた。
「や、やっぱそうでもないぜ!それでもいいかなって…」
「オレは絶対イヤだ!父さんの隣がいいし、こいつに抱っこされるなんて死んでも嫌だ」
「ボクだって嫌だね。ていうか、ボクだってブルースの隣がいいよっ!!優等生ぶってるけど、本当は…」
「ティム……」
「嫌だ、嫌だ!僕だって隣がいい!!もう随分と隣で寝てないっ!!」
「というか、お前達は一体何なんだ。今夜はどうした?」
「怖い話をしたんだ」
「なに?そんな下らないことを」
「ブルースも知りたくない?」
知的好奇心を抑えきれず、ブルースはティムから話を一通り聞き終えた。

「ブルース枕もってどこいくの?」
「聞くな」
「もしかしてアルフレッドのところ?」
「……」

「おやおや、みなさま御揃いで。どうかなさいましたか?金のガチョウごっこですかな?」
「アルフ、隣で寝させてくれ」
「どうぞ、お引き取りくださいませ」
満面の笑みで答えるアルフレッドが最も怖かったとか…

2016/7/15 −愉快な蝙蝠一家−





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