女が嫌がるような事でもこの人は文句の一つも言わずヤらせてくれるから、プレイボーイっていう過去の経歴は男女関係ともに真実なんだろう。


だから今、隣で背を向けて泣いているこの人の、その原因となったスイッチがなんなのかわからなくて俺はベッドの中で途方に暮れている。


理由を聞いたところで鼻をすする音しか返ってこない。思い起こすにしたって、とりあえずヤりたくて仕方がなかった身としては、それに至るまでのことなんて覚えちゃいない。男でなおかつ人生経験も豊かなこの人なら、その衝動くらいわかるもんだろう。つーか、わかれよ。わかってくれ。どうして俺が一人で原因追求しなきゃいけないんだ。


「なんで泣いてんのさ。ねぇ、ブルース」



……無言ですか。なんなんだ、わけわかんねぇ。


「埒明かないから帰る」


ぴくりと背中が震えたが、それきりだったから身支度をして屋敷を出た。







ブルースとこういう関係になったのは高校を卒業してからだ。卒業祝いに何が欲しいか訊ねられ、俺はずっと欲しかったものをお願いした。


彼自身を。


ブルースは嫌とは言わなかった。けど嬉しいとも言わなかった。無表情のまま「YES」と。その返事だけで俺は有頂天で、彼をシーツに縫い止める事しか頭がいかなかったけど、今考えれば、あの時からすれ違っていたんだろう。


最初はまるで女にするように、彼を大事に大事に扱った。けど彼からは何もなかった。ただ俺のアレを受け挿れるだけで、俺の気持ちは微塵も受け取ろうとしなかった。

好きだ、愛してるを繰り返すのは俺だけで、果てた後のベッドには虚しさしか残らなかった。


俺ばかりが想いを募らせることに我慢ならなくなって乱暴に扱ったが、彼の様子は一切変わらなかった。殊更大事にした夜と、ただのファック。彼には同じだったのだ。


俺は愕然として、それ以来、愛を告げることはしなくなった。ただヤルだけの関係になってもう数ヶ月。

最初はブルース一筋だったが、今では別の女子とも遊ぶようになった。けど、一番具合がいいのはやっぱり彼で、それがまた腹立たしかったりする。

おれの風紀は過去史上最悪になってて、それこそ少年院に入った時期なんて比べ物にならない。常に苛立ちが身体を渦巻いていて、何をしたって消えちゃくれない。









1回目はゴム越しに出して、2回目は生で。3回目はまんぐり返し状態で、もちろん生。

それでようやく満足した。


この間の一件は互いに何も言わないまま始めた。彼は拒否するかと思ったけど、何事もなく俺を受け入れた。ほら、やっぱり


「ほんと、セックス好きなんだね」

「………………」

「昔は誰とでもしたんでしょ。女と男ならどっちが多かったの?」

「………………」


ケイヴでは普通に喋るのに、俺があの衣装を脱いだら黙りだ。


「ねぇ乱交もしたことあんの?最近、大学の仲間としたんだけど、あれって最高。ウケるよ。みんな馬鹿みたいで。

ねぇ、あんたもしてみる?女子に引かれちゃマズイから男だけで。アブノーマルな奴らだから、きっと面白がるよ」


ブルースは無言のままベッドから降りると、よたつきながら立ち上がった。危なっかしさに思わず手が伸びたが、俺に触れられた腕を即座に離され、頭に血が昇った。


気付けば彼をベッドに引き倒して、横っ面を叩いていた。

「…あ……」

自分のした事が信じられなくて一瞬思考が止まった。


彼のアイスブルーの瞳が氷よりも冷たい眼差しで俺を見ていた。

やめろ。まただ。頭が痛い、胸が焼けそうだ。


「そんな目で見るな!!!」


続けざまに2発叩いた。彼は横を向き視線はそれきり俺に向かなかった。


彼の股を割り開いて、中出ししたザーメンが流れ出てる穴に、半起ち状態のチンコを捩じ込んだ。

何も考えずただ乱暴に腰をふれば、絡み付く腸壁と結腸のうねりが俺のモノを怒張させた。


「いい穴してるよ、あんた。性格は可愛くないけどナカは可愛いね」


ブルースは目を閉じ、口を真一文字に結んでいた。一切、声を出す気はないらしい。なら無理にでも開かせてやる。


彼のプラチナのような白髪を掴み、無理矢理に仰け反らせ、喉仏に噛みついた。その痛みと、前屈みになったことでより一層奥を突かれたからか、ブルースが短い悲鳴を上げた。

無視して彼を揺さぶり、チンコをもっと奥に奥にわざと腸壁を抉るようにして突いた。噛みつき痕のついている喉を片手でぐっと締めると、同時に穴も締まった。


「はっ、変態かよ」


ブルースがぴくりと震え、閉じている目蓋の間からジワリと涙が滲んだ。



俺はそれ以上、動けなくなった。



体の熱は見る間に醒め、萎えたチンコを抜いて改めて彼を見下ろした。



ブルースは乱暴に目元を擦り、何事もなかったかのような顔に戻ったが、叩いた頬の赤みは消えてなかった。それだけじゃない。古傷だらけの身体に真新しい傷や痣が浮いていた。あぁ、これ全部、俺が付けたんだ。俺が……



なんで。どうしてこうなったんだ。こんなことをしたかったわけじゃない。彼を優しく大事にしたかったはずだ。どうして……愛してるのに……



「なんでだ…………何か言ってくれよ。お前なんて嫌いだ、触るな、金輪際顔を見せるな、解雇だ。どれでもいい。泣くくらいなら何か言ってくれ。言えよ!!」

「………満足したなら今晩は帰れ」

「そういう事じゃない!俺の言葉も態度も全部全部無視かよ!!乱暴なセックスに何も感じないなら、ほんとに乱交パーティーに放り出してやるよ!!別に俺じゃなくたっていいんだろ!若い奴らが散々相手してくれる!」

「………お前がそうしたいなら」

「畜生!!!」


ナイトテーブルのランプを凪ぎ払うと、耳障りな衝撃音がした。きっと床下にはステンドガラスで覆われた本体があられもない姿で転がっているだろう。でもきっとブルースは気にも留めない。モノは彼にとってモノでしかない。また買い足せばいいんだ。俺という存在も。


「どうして俺を無視するんだよっ!!!」


ブルースの唇が動いたが、それは音を紡ぐ前に閉ざさった。


「……もう……もういい……。終わりだ…。あんたとは二度と会わない」

「……バットマンは…」

「続ける。だからケイヴには入って来くるな。もう一人で何でもできる」

「…私は用済みか?」

「あぁ」


俺を凝視したブルースの瞳が揺らいだように見えたが、それは一瞬のことで、彼はすぐにそっぽを向いた。


「………ケイヴは好きに使え」









あれから三週間経つが、本当にブルースはケイヴに現れなかった。

外から見れば部屋に灯りがついているから居ることは確かだが。

いつものように、何事もなかったかのような顔でケイヴに現れる事を望んでいたわけじゃないが……今回ばかりは本当に駄目なのかもしれない。


二週目辺りから書き始めた事件報告書がわりのメモは、一ミリもずれることなくモニター前に置かれたままで、三週目からはその上に愚痴を書いたメモを重ねていったが、それもやはり彼が見たような形跡はなかった。


終わりだと告げたのは自分だ。始めたのも自分だ。次に何をすべきかは、きっと全てを忘れることなんだろう。けど、そんなこと……


「できないよ……」




ワンワンワンっっ!!!



エースの声だった。屋敷とケイヴの扉越しに聞こえるその声はいつもと違った。必死な一方で弱々しい……嫌な予感に全身が冷たくなった。



扉を開ければ血を流しているエースが倒れていた。


エースの容態を心配する前に、瞬時に頭を過ったのはブルースの事だった。それを振り払い、エースの怪我を診ると銃創が太股にあったが、出血死するレベルではなかった。


「大丈夫だ、あとで手当てしてやるからな、待ってろ」

くぅん……


エースは何かを示すように鼻を上に向けた。その方向に何があるかを俺は嫌というほど知っていた。




急いで駆け付けたブルースの寝室には、ジョーカーズがいた。

彼らの勢力は未だ衰えることなく、バットマンとしての活動をすればするほど、より強力な組織となって対抗してきていた。その資金源となっている大元は非合法ドラッグだが、娯楽も相まって強盗事件もよく起こしていた。独り暮らしの大富豪が狙われないわけがない。


彼らは袋にどっさりと屋敷の貴重な品々を詰め込んでいるようだったが、俺の目的はそこじゃなかった。


「ブルース……っ!」


彼はいなかった。いるはずのベッドは乱れ、折れた杖が床に転がっていた。


俺の存在に気付いた奴らが銃を放ってきたが、素早く交わし、薙ぎ倒した。30秒もかからなかった。一人だけ意識のある状態で残すと、首を捻りあげ高く持ち上げた。


「彼はどこだ?」

「あ……がっ……」

「家主はどこだ。答えろ」


男は廊下を指差すと失神した。そいつを投げ捨て廊下に出ると銃声が響いた。


全身が粟立った。


無我夢中で音の方向に駆け付けると、金庫の前で男数人がブルースを囲んでいた。二人が彼の手足を抑え、もう一人がブルースの腹に片足を乗せていた。その男の持つ銃からは煙が昇っていて、ブルースの右腕付近には血溜まりが広がっていた。


「今度は左腕を撃ち抜くぞ。早く暗証番号を言え」

「撃てばいい」

「困った爺さんだ」



男の足がブルースの腹に深く沈み込み、彼が呻いた。その瞬間、手足が急に冷え、代わりに頭が煮えくり返りそうなほど熱くなった。視界が真っ赤に色付いて見える。



「俺のに……触るな゛…っ!」



男が銃を構えるより早く飛び掛かると、床に転がった男の顔面に肘鉄を食らわした。骨が折れる音と水が弾ける音がした。あいつの鼻と目は使い物にならないだろう。


今の俺はバットマンじゃない。ケイプを纏っていないただの男だ。だから…………殺したって構わない。


起き上がった瞬間、すぐ隣に銃弾が飛んできた。

振り向けば、ブルースを抑えていた二人の男がこちらに銃を向けていたが、ブルースが男の片足を左手で掴み、足元の男を蹴り転ばしたことで、銃口が逸れたらしかった。


足を掴まれている男が、銃口をブルースの顔に定めたのを見た瞬間、殺意が湧いた。

足元で転んでいる男の頭を台にするようにして蹴り踏み、その勢いで男の喉仏目掛け飛び蹴りをした。足元からも、蹴りだしたすねからも、相手の骨と肉が軋む感触があった。


倒れ行く男が放った銃弾は、上方目掛け繰り出され、シャンデリアに当たった。ぐらりと揺れたシャンデリアが次の瞬間落ちてきた。


その真下にはブルースがいる……











「テリーー!!テリィ!しっかりしろ!!テリーっっ!!!」


目を覚ませばブルースが真下にいた。俺は彼の身体に覆い被さっている状態で、辺りにはクリスタルの破片が飛び散っていた。


「っつ……!」


身体を動かそうとすると、背中に強烈な痛みが走った。


「テリー、無理に動くな」

「でも……」

「防犯システムが作動したはずだ。直に警察が来る」

「そう……バットスーツ着てなくて良かった」

「あぁ、本当だな」

「ブルース、右腕大丈夫?」

「あぁ」

「痛くない?」

「平気だ。お前は?」

「少し痛い……」

「そうか」


ブルースは左手で俺の背中を撫で始めた。一瞬、何が起きたのかわからなかった。


背中がじんわりと暖かくなってきて、痛みはどこかへ消えた。それなのに、涙が溢れてきて止まらなかった。震えながら泣く俺の頭を、髪を解かすようにして撫でてくれた。


その温もりは優しかった。どうしようもない俺に、彼はいつだって、今だって、ずっとずっと…優しかった。そんな人を好きになれないわけがないだろう。



「ブルース………愛してる……」



彼はやはり返事をしてくれなかった。けど、不安も怒りも沸かなかった。

撫でられる手が心地良くて、瞼が自然と落ちてきた。温かくて…気持ちいい……。



「おやすみテリー、    」



意織が深みに落ちる瞬間、最も聞きたかった言葉が聴こえた気がした……











目が覚めて、まず視界に入ったのは点滴。

そして次に……ゴードン本部長。


「まじか…」

「私で悪かったわね」

「いえ…」


彼女は恐い人だ。殊更、俺には。

きっと俺がバットマンを継いで自警団をすることが気に食わないのだろうと思っていたが、最近になって違うとわかった。彼女は俺がブルースの傍にいるから気に食わないんだ。俺とブルースの関係をどこまで知っているのか謎だが、全て知ってそうな気がする…。


「幸い、ブルースもエースも綺麗に弾が貫通していて神経も傷ついていなかったわ。しばらく動かせない程度かしら」

「良かった…」

「貴方はただの打ち身と、脱水。栄養状態が著しく不良だったそうよ。最近、まともに食事食べてなかったんじゃないの?」


そう言われて改めて気が付いた。そういえば、食べてなかったかも知れない。悩む事が多すぎて食事に気が回らなかった。




その日のうちに退院して、俺より先に屋敷に戻ったというブルースの元を訪ねた。本当は彼には入院が必要だったそうだが、エースの面倒をみるとかで無理矢理帰ったそうだ。実に彼らしい。






気まずいのは俺だけだろうか。


ブルースはいつもと同じく、何事もなかったかのような様子で俺を出迎えた。

今、俺の目の前にはスープが置かれている。


「片手で作ったから味の保障はいつも以上にない」

「…ありがとう」

「医者が栄養失調だと言っていた」

「そうみたいだね。いただきます」


温かなスープを飲めば、あの夜、俺の背中を撫でてくれた温もりが蘇ってきた。


「ブルース」


「なんだ?」


「愛してる」


「……」


「愛してる」


「……」


「どうしたらいい?!あんたが好きで壊れそうなんだ!!あんたが俺を好きじゃなかったとしても……どうしようも出来ないよ……。ブルース……俺はあんたを愛してる。愛してるんだ……っ!」



泣きたくなんてないのに、くそっ!涙が溢れて止まらない。女々しくて、餓鬼っぽくて、みっともない奴だと思われるだろう。

沈黙が部屋を埋めた。どのくらい時が経っただろうか。



「…………セックスが好きなわけじゃない」


「……ぇ…?」


「お前だから許してた」


「ブルース…?」


「お前の言葉に返事をしなかったのは、お前の重荷になりたくなかったからだ。私の言葉は呪いになって、いつか枷になる。お前の未来をこれ以上奪うのは恐ろしい」


「それって…どういうこと?」


「…………言えない」


「俺のことを…愛して…くれてる……ってこと?」


ブルースが苦しそうに小さく頷いた。

どうして泣きそうな顔をするんだよ。こんなに嬉しいことなんてないだろ、なぁ。


「重荷ならいくらでも背負える。呪いなら喜んで受ける。枷なら幾つでも着けてくれよ。俺に未来を与えてくれたのは昔も今もブルースだ」


「やめろ………お前には未来がある」


「ブルースにだってある。これからの未来もあんたと作りたい。それ以外、考えられない」


「……っ、私がお前に渡せるものは、一時の娯楽と財だけだ…。私と過ごして……失うものはあれど、生まれるものなどないんだぞ」


「あんたの愛が貰えれば充分だ」


「よく考えろ…っ、駄目だ……間違ってる……」


「ブルースのいない未来なんて……


「テリぃっ……やめ」


 俺はいらない」



俯いたブルースの肩が震えて、滴がぽたぽと落下していく。綺麗なそれは灯りに照されて、まるで宝石のようだった。ダイヤモンドのように硬い心が砕けていく。世界で一番強いこの人は、本当はちょっとだけ脆いってこと、わかってたはずなのになぁ…。



気が付けば抱き締めていた。


二人して泣いて、俺達まるで馬鹿みたいだ。でも、すげぇ幸せ。



「ねぇ、言って……おねがい」


「テリー……っ………愛してる…」


「あぁ、俺も。俺もだよブルース」






◆◆◆




二週間後



「んっ…そこ…は…ぁあ゛…っ!」

「はっ、はぁっ、ン゛…っブルースのナカ…すっごく気持ちいいよ。めちゃくちゃいい゛っ!アぁ…っ!!ブルースはどう?俺の……はっ……キモチいい…?」

「んぅ゛、ァ、てぇ…りぃ……もっと」

「任せてっ!んっ、くぅ………あっ、もうっ……イきそぅ!ブルースっ、愛してる……俺のブルース…っ大好きだよ、、あぁ…ンッ出る!!中に……っ!」

「ぁ…アッン゛…っ!…おい…で、てりぃ……」

「んあ゛ァア゛アッッ!!ぶ、るぅ……すッ!!!」



ベッドの中、ぐったりと脱力しているブルースを抱き締め、テリーは吸いつくようなキスを至る所に降らしていた。


「ちゅっ、ちゅっ!ん〜〜っブルース大好きっ、愛してる、ねぇ、ねぇ、ブルースは?!」

(うるさい奴だ…)

「……あぁ、私もだ」

「最高!しあわせだなぁ」


ブルースが身じろぎをしたことで、テリーは一度身体を離し、鞄から何かを持ってくると再度ベッドに潜りこんだ。


「ねぇ、ブルースにプレゼントがあるんだ!大学の講義空いてる時間にさ、短期バイトしてそのお金で買ったから、正真正銘のプレゼントだよ!ブルースからのバイト代じゃないんだぜ」

「わざわざそんな事をしなくとも…」

「あと18歳になったから買えるものが増えてさ」


その言葉にブルースの眉がぴくりと動いた。


「じゃじゃーーん」


テリーが取り出したものは、卑猥な形をした半透明の……バイブだった。

どん引いているブルースを無視し、テリーがスイッチを入れるとモーター音と共に先端付近のパールがぐるぐると回った。何よりも様々な色に光り出したそれは下品極まりない代物だった。


性欲の有り余る年頃だということは同じ男として重々承知はしているブルースだったが、こういうものを使ってのセックスをしようとも、したいとも思わないで生きてきた彼にとっては、少々、いやかなり理解しがたい事だった。これがジェネレーションギャップかと意識を遠くに飛ばしているブルースの肩を揺さぶり、テリーは笑顔で覗きこんだ。


「興奮し過ぎてさっき使うの忘れてた!これ使ってみたいなぁ、ねぇいいでしょ?」


これがテリーでなければ張り倒しているところだったが、孫のように可愛がっている青年に潤むような瞳を向けられ、ブルースは喉まで出かかっていた拒絶の言葉を呑み込んだ。


「………今度な」

「やったぁああ!!ブルース、愛してる!すっげぇえ愛してるっっ!!」

「はぁ…」



ブルースとテリーの関係はあれ以来良好だ。

テリーの激しいまでの愛情は、身体でも言葉でも発散されまくっており、一方でブルースもその若々しさを包みこむように受け入れ、尽くすことで愛情を表現していた。


一時期のテリーの荒れた素行は嘘だったかのように無くなり、女性関係も清算し、悪友とは縁を切った。真面目に大学に通いながら夜のパトロールも熱心にこなした。

そのかいもあって大きな事件はここ最近なかった。

時間が空けば待っているのは彼の愛するボスとの甘い時間で、まぁ全てがアレに繋がるわけではなく、時には他国の語学勉強や、コンピューター解読の手順など、バットマン講座が開かれることもあったが、ブルースと過ごせる時間の全てが愛しかった。


つまり、テリーは幸せの絶頂にいた。



そんなある日、大学からの帰宅途中に襲われている女性を見掛け、テリーはジョーカーズの一派をのめした。そのうちの数人が逃げ出したが、女性の保護を優先し、そいつらは放っておくことにした。

それが後々の悲劇に繋がるなど知らずに。





それから数日後、ブルースが誘拐される事件が発生した。

屋敷にでかでかと残された落書きは、HAHAHAとスプレーで書かれたおり、他にも陳腐な言葉が壁や床に書かれていた。


明らかにジョーカーズのしわざだった。


テリーだけではなく、バーバラも警察を総動員して消えた大富豪の行方を追ったが、彼らのアジトのどこにもブルースはいなかった。

警察の仕事は今や、犯人捜しよりもバットマンから残虐過ぎる倒され方をしたチンピラ共を回収することに比重が置かれていた。

ニュースでもバットマンの乱暴すぎるやり方が取り上げられ、自警団のレベルを越えた犯罪とまで非難するコメンテーターもいた。


テリーが狂気的なほど必死になっていたのには理由があった。

ブルース失踪から2日目、テリーの家に送られてきた差出人不明のDVDに映っていたのは、悲惨なブルースの姿だったからだ。




ジョーカーズの一人が画面に向かって叫ぶ。


『よぉテリー・マクニギス!!お前の秘密の恋人は、なかなかに良いオナホになってるぜ!年寄り相手に勃つわけねぇと思ったがモノは試し用だな!!

お前にはコイツん家で捕えられた仲間のカタキと、この間の礼がしたくてなぁ。どうだこのDVDは?いいプレゼントになったか?!

次回はもっといいもんを送ってやるよ。指と目玉ならどっちがいい?それとも首か??』


下品に笑う男の後ろで、乱暴に輪姦されているブルースの姿が映っていた。怒りに腸が煮えくり返りそうなそれを、ケイヴで何度も何度も再生させ、テリーは手がかりを探した。

あまりにも夢中で彼は背後にバーバラが迫っていることに気が付かなかった。


「奴らは貴方への報復にブルースを誘拐したのね」


テリーは背後を振り返ると、隠しもせずに舌打ちをした。


「貴方達の秘密の関係を調べてるくらいだから、バットマンの事も知っているかもしれないわ」

「さぁ。それはないんじゃない。もし知ってたらこんな脅し方しないだろ。もっと俺達を揺すれる」

「それもそうね」

「それに知ってたところで、消せばいい」

「?」

「脳味噌を潰せばいいだけだ」


テリーの目は冗談を言ってはいなかった。酷く冷めた目をした青年に、凶悪犯罪者を何百人と見てきたバーバラでさえ背筋が一瞬凍った。


「……居場所はわかったの…?」

「あぁ、恐らく」







居場所とおもしきアジトは、建築が途中で打ち止めになり放置された施設だった。


テリーはバットマンのスーツを着て、通気口から既に中に侵入していた。警察隊は施設の周りから一定の距離を置いて配置され、バーバラの合図で突入できるようになっていた。

バーバラの無線はテリーのスーツ内蔵のマイクとリンクされており、今回だけは特例としてバットマンと警察が共同で組織壊滅と富豪の救出をする運びになった。

バーバラにとっては、テリーが殺人をしないように監視・抑制するという意味もあった。


「バットマン、先にメインコントロール室に。恐らくボスや幹部はそこにいるわ。騒ぎを起こして逃げられないように先にそこから攻めて」

「駄目だ。ブルースが先だ」

「いいえ、気が付かれれば銃撃戦になるわ。メインを潰してからブルースを」

「…静かに」


微かな声に反応し、テリーは指先の音収集装置を壁に当てた。



『んぅ……んん゛っ……、ぅうっ……』

『おい、次俺の番な。げ、お前ゴム無しかよ!ちゃんと付けろよなぁ。てめぇのザーメンで濡れるとか最悪だ』

『あは、だって生すげぇ気持ちいいんだもん。マンコの比じゃない』

『おい、じいさん。鼻から呼吸しろよ。また気を失うぞ。口枷、今だけとるか?』

『だめだ。この間舌を咬み千切ろうとしやがった。死なれちゃ困る』

『でも、どうせ殺してバラにして送るんだろ』

『ボスは、生かしながら細かく切ってくって言ってたぜ』

『へぇ〜。顔のいい爺さんだから目玉は後にして、まずは指か耳だな』

『おっ、いい感じにきてる。おら、もっと締めろよ。いく、いくいく!!』

『ん゛ぅーーっ、ンン゛っ、んぅ゛ーーっ゛』




「何かわかったの!?バットマンっ!聞いてるの?!」

「全員殺してやる……」

「駄目よ!!これは任務よ。ブルースにだって危険が及ぶわ。まずはコントロール室へ行って」

「あいつらみんなぶっ殺す…」

「マクニギス!!勝手な行動は慎みなさい!!もし犯人を殺したら次は貴方を逮捕するわ」

「ならしてみろ。俺の邪魔をするなら警察もあんたも敵だ」

「マクニギス……!!」


テリーは自身のコメカミを強く叩き、内蔵のスピーカーを壊した。







通気口から監禁部屋へは直接行くことは難しく、そしてテリーも最短距離で向かいたかった。彼は通気孔を壊し通路に出ると全力で駆け抜け、バットラングで敵を薙ぎ払った。

テリーが施設内で暴れ出したことで、警報が鳴り、警官隊が突入せざる負えなくなった。バーバラの指示のもと、警察隊が乗り込み現場は激しい銃撃戦となった。


そんな中、テリーが監禁部屋に辿り着くと、そこには手錠でパイプに繋がれ気絶しているブルースしかいなかった。男達は銃撃戦に加わるため、ここを離れたのだった。


テリーはブルースの手錠を壊すと、彼を抱き締めた。反応はなかったが、脈はあり呼吸もしていた。周囲には、使用されたコンドームが転がっており、ブルースの体には陵辱の痕跡が痛々しく浮いていた。

テリーは近くの木箱に掛かっている布でブルースをくるむと部屋を飛び出した。



銃声が聞こえる中、テリーはどうやって施設から出たのか記憶がなかった。ブルースを腕に抱きわんわんと泣いているところをバーバラに保護されるまでの間、彼はずっとそうしていた。









病院にすぐさま運ばれたブルースだったが2時間経っても意識は戻らなかった。


テリーはずっと傍に付きっきりだった。

訪室したバーバラに気が付くこともなく、彼はぶつぶつと何かを呟いていた。


「ころス殺スコロすコロシテヤるゼッタイニ殺スころすこロスころして…」


バーバラがその肩に触れると、テリーは弾かれたように振り返り、牙を剥き叫んだ。


「殺してやる!!!」

「静かにマクニギス。場所をわきまえて」

「黙れ!!なんであいつらを取り逃がしたんだっ!!また一から捜さないといけなくなった!」

「私の指示した通りにしていれば、犯人逮捕もブルースの保護もできた」

「お前らが銃撃戦を始めなければ俺があの場で全員殺してた!!一人残らず殺す事ができたんだ!!」

「そうね。もしくは貴方が殺されて、ブルースも殺されたかも」

「俺を見くびるな…っ」

「ともかく貴方の勝手な行動で銃撃戦になったのよ。警官隊の数名が負傷したわ」

「関係ない。お前らが無能だからだろ」

「……関係ないですって?彼らにとってもブルースは赤の他人よ。でも警官隊は彼を救い出す為に任務についた。敬意を払いなさい」

「それが仕事だろ」


バーバラはテリーの頬を強く叩いた。


「彼等は駒じゃないわ」

「駒より役に立たない」


バーバラに向き合ったテリーの瞳には、怒りの色しか浮いていなかった。本能的にキケンだと感じ、バーバラの足が反射的に一歩下がった。

テリーは素早く彼女の胸倉を掴むと、片手で握り拳をつくり頭上で止めた。その拳を横目で確認しつつ、バーバラも負けじとテリーを睨み付けた。


「そもそも貴方がジョーカーズを焚き付けたのが始まりよ」

「……」

「ブルースが身に受けた傷は、貴方がつけたも同然」

「黙れ」


テリーが腕を振り下ろそうとした時だった。


「…て、りぃ………、やめ…ろ…」

「ブ、ブルース!!?」


テリーはバーバラから手を離すと、すぐさま駆けより両手でその頬を包んだ。


「ブルースごめん、俺のせいでこんな目に……っごめんっ……ごめんなさい……っ」


はらはらと涙を零し、泣くテリーの頭を撫でてやりながら、ブルースはバーバラの方を見た。


「す…まな…かった……」


バットマン時代ならば絶対に出てこなかっただろう言葉を言われ、バーバラは目を大きく見開いた。

この青年がブルースの心を柔軟にさせたのは明らかで、それがわかるからこそ彼女はテリーに嫉妬のような複雑な感情を抱いていたのだった。


「幸い、怪我人だけで死者は出てないわ。犯人達は必ず見つけ出して逮捕する。貴方はゆっくり休んで。それとそこの坊やが殺人犯にならないよう、しっかり見張ってて」


お大事にと残し、バーバラは病室を出ていった。

ブルースの胸元では、テリーが顔を伏せ泣きじゃくっていた。今にでも堕ちそうな意識をどうにか保持し、ブルースは青年を撫で続けた。


「テリぃ……不安にさせ…て……悪…かった……」

「怖かった!ブルースが殺されてたらどうしようかと思った……!生きた心地がしなかった…っうぅ、うっ……」

「警官隊の…家族も…そうだ…。お…前と…同じように…怖かっただろう……。何を言いたいか…わかるな?」

「……うん……本部長には謝っておく……ぐずっ……」

「グッド…ボーイ……、少し…眠らせておくれ……」

「わかった……ブルースおやすみ、愛してるよ…」






数日後、バーバラがテリーの通う大学に現れた。二人は人気のない構内のベンチで、適度な距離をおいて座った。


「……この間はごめん」

「よく聞こえないわ」

「失礼な事を申し上げてスイマセンでした」

「あらまぁ、躾が行き届いてること」

「……今朝のニュース観たよ」

「えぇ、犯人達は全員捕まえたわ。よく我慢したわね」

「殺したら縁を切るってブルースに言われた。

どうせ刑罰は軽いんだろ。裁判なんかするよりも殺してやった方がいいのに」

「いいえ、彼らは裁判に欠席するわ。代理人が出る」

「はぁ?なんで」

「もう喋れないからよ。逮捕時の不慮の事故ってやつ」

「それだけ?」

「………護送中の事故でペニスもなくなっちゃったわ」

「わぉ」

「マクニギス、私を見くびってもらっちゃ困るわ。殺すだけなんて生ぬるい」

「……見直したよ」

「どうも」







ブルースが退院してから、テリーは屋敷に泊まり込むようになった。体調が心配なだけでなく、危険が及ばないよう守る意味もあった。


同じベッドの上、テリーはブルースに触れて寝るのが癖になっていた。そうでないと不安になるからだ。ブルースではなくテリーがだ。

今晩は肩に触れる事に決めたらしいテリーがさわさわと撫でながら口を開いた。


「もうさアパート出ちゃおうかな。部屋余ってるでしょ?」

「余ってはいるが………同居は……」

「あー。その言い方は嫌なんでしょ?」

「……出ていかれた時の気持ちはお前にはわからんだろう」

「出ていくの前提で話すのやめてよ」


ほんと信用ないなと愚痴るテリーを無視し、ブルースは目蓋を閉じ眠る態勢に入った。


しばらくして、肩に触れていた手が胸元を辿り、下腹部に到達しそうになったところで、ブルースはガッとその不埒な手を掴んだ。


「ブルース……いい?」


事件以降、二人が身体を重ねることはなかった。始めの内は、抱き締めて眠るだけで堪えることが出来ていたテリーだったが、真っ盛りの青年としてはそれももう限界だった。


「駄目なら我慢する。恐い思いをしたばかりだもんね。……無理にはしないけど……でも……」

「テリー…」


ブルースは眉根を寄せ、首を横に振った。


「わかった……ごめん。俺なら大丈夫だよ。おやすみブルース」

「違う……テリー。怖いわけじゃない。HIVや血液病に感染していないか心配なんだ。大方の検査は全て陰性だったが、まだ2ヶ月は経過をみたい」

「2ヶ月も?!」

「不特定多数だったからな……。念には念をいれたい。お前に何かあったら困る」

「あぁ、それなら大丈夫だよ。わりと初期の頃に、ブルースの傷口舐めたし、俺の傷口と合わせたから」

「……は?」

「いや、だって、ブルースこういうこと言い出すと思ったから、寝てる間にちょっと……」

「お……お前は馬鹿か?!!大馬鹿か!?自分が何をしたのかわかっているのか?!」

「うん。わかってる」

「な……なんでそんな危険な事を……っ」


テリーは全く悪びれることなく、むしろ堂々とした顔付きでもって「愛してるから」と笑った。


「愛してるからってお前……それとこれとは話が別だ……!」

「同じだよ。もし感染してたら一緒に治せばいいし、駄目なら死のう。今更、倫理に反するとか言わないでよね。そんなこと言い出したらキリがないよ」

「…………はぁぁ……頭が痛い…。時々、お前が怖くなる」

「俺も!!」


笑顔で答えながら、ブルースの真上に乗り上げたテリーは、ブルースのシャツを捲し上げ乳首に吸い付いた。


「楽しいか……?」

「うん!なんか、美味しい気がする」

「テリーお前……戦闘中にどこかぶつけたのか?」


テリーは胸元をべろべろと舐めながら器用にブルースのズボンと下着を抜き去ると、逃げられないようブルースの下腹部にどしりと腰を下ろし、自分も寝間着を脱ぎ始めた。

テリーの触れている股間が硬く勃起しているのを感じ、ブルースは気付かれないよう静かに溜め息を溢した。こんな己に欲情してくれる青年を、愛しいと思えないわけがなかった。


ブルースはゆっくりと腕を伸ばし、テリーの浮き出ている腹筋に手を這わせた。誘うような手付きに、テリーが目を見開いてブルースを見れば、彼は珍しくニコリと微笑み、起こしてという意味を込めて両腕を付き出した。


「私にも味会わせておくれ」


ブルースの視線は雄々しく猛っているテリーのペニスを指していた。








「んっ……ぁ……ぁあ゛、っす、ぶるぅす……アァ…凄くいいよっ……ん゛ぅ」


じゅぷ、じゅぽ、ちゅく、じゅぷ、ちゅく……


いやらしい水音を立てながら、ブルースはテリーのそれを口に含んでいた。大きく育ったそれが、このあと自分の体内に入るのかと思えば、少し怖い気もした。


「ねぇ…美味しい…?」

「……あぁ」

「どんな味なの?」


どんな味って…正直に言えば精液など不味いものでしかない。けれどそれを本人に言うほどブルースは機微が読めないわけではなかった。確かなのは、あの男達に無理矢理やらされた吐き気を催すフェラチオとは違い、テリーのものは全く嫌ではないこと。それを表現するには……


「……私の好きな味だ」

「まじか……やば…ぃ……っ嬉しい…」


出してもいいぞと視線で訴えたブルースだったが、テリーは頭を振るとブルースを引き剥がした。


「はぁー…はぁー…っ、ブルースの中に出したいっ…!」







慣らそうと差し込まれたテリーの指に、ブルースは一瞬顔を歪めた。痛いと言い出しそうになった口を強く閉じテリーを見たが、彼はブルースの様子に気が付いていないようだった。細い指で中を擦られる方が、傷が痛むのかもしれないとブルースは思った。


「てりぃ…早く…」

「え……?いや、でも…慣らさないと。ブルースに痛い思いをさせたくない」

「大丈夫だ、てりぃ…早く欲しい」


この歳になって、なんて淫乱な事を言っているのだろうかとブルースは頭の片隅で思った。


「本当にいいの?…じゃあ入れるけど、痛かったらすぐ言ってね」

「あっ!……ぅうぁ…あっ…はぁ…」


痛みを逃がすように細く息を吐くブルースを見兼ねて、テリーは動きを止めた。


「ぅん…だいじょ…ぶ…だ、続けろ」

「でも…」

「いいからっ………」


テリーはジェルを直接結合部分に垂らすと、抜けない程度までペニスを引き抜き、竿にジェルを馴染ませ再度ブルースの中に押し入った。

ヌプヌプと音を立てて入っていくそれにブルースの表情が険しくならなかったのを確認して、テリーは緩々と腰を動かし始めた。振動に合わせて出始めたブルースの喘ぎ声は、痛みではない艶めいた声だった。


「あァっ、ぁ…あぅ…奥にっ、あっンん゛っ、あっ、アァっ……テ、リ……てぇりぃ…」

「ブルース…っ、中……熔けて…あっつぃ……アぁぁ気持ちイイッ…!…アァ゛ぅん゛…あぁ…っ、ぶるぅす…っ」


テリーがブルースをきつく抱き締めると、ブルースも長い脚をテリーの腰に回した。隙間無く密着した二人はキスを交わしながら囁きあった。



「離さないでね」


「離すなよ」



互いに小さく笑った。



2016/3/3 −曲がりくねって愛してる−





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