子供の頃、私の世界で色が付いているものはお兄ちゃんしかいなかった。

あとは全部灰色で、酷く寂しい現実の中で生きていた。

あの頃、よくお兄ちゃんは“庭”と呼ばれる場所へ連れてかれていた。

一人になることを極端に恐れた私は、お兄ちゃんの髪を掴んで離れるのを泣いて嫌がった。

“庭”で何が行われているのか、あの頃の幼い私にはわからなかった。

けれど、血が全部抜けたような青ざめた顔で戻ってくるお兄ちゃんの眼だけが、妙にぎらついているのが恐かった。

お兄ちゃんの髪が靡くたびに思い出す。

あの時、あなたの髪を掴んで離さなければー・・・?





2011.04.17
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