運転席にブルース。助手席にダミアン。

この構図はバットモービルでよく見かける光景だ。

だが今は夜のパトロールでもなければ、走っている場所もスラム街ではない。

真っ昼真、人々が行きかう市街地を走行中だ。

そして二人が乗っている車は、いつもの装甲車ではなく高級車パガーニだった。


車内では、重苦しい空気が漂っている。


「父さん、ごめんなさい…」

「学校に呼び出されるのは今年に入って何度目だ?」

「……」

「私が新聞に載る度に喧嘩を起こすのは止めろ」

「手加減した」

「しないと大怪我だ。今頃お前は少年院行きだぞ」

「蟻をはじくより弱くした。あんなの跡も残らない」

「そういうことを言ってるんじゃない!」

「………ごめんなさい」

「……」

「でも、あいつら今朝の新聞を真に受けて、父さんのこと“ゴッサムの不名誉”だって言ったんだ!あの政治家が何だっていうんだ!まるであっちが正しいみたいにっ!口論は酔った父さんのせいとか、そんなの言い掛かりだ!」

「脚色が当たり前の世界だ。記事もそれを噂する人間も放っておけ」

「放っておけない!!みんな父さんがどんなに凄いか知らないんだ!ウェイン産業やバットマンに守られてるってのに!!あの恩知らず共!!許せない!!」

「静かにしろ」

「…………はい」



「…………父さん」

「なんだ」

「もう喧嘩しないって約束……したいけど自信無い」


ブルースはダミアンを横目で睨んだ。小さなダミアンが更に身を縮ませ、伺うように彼を見上げていた。ブルースは呆れを含ませた溜息をついた。


「いいか、もしまた今度、私の事を馬鹿にする奴に出逢ったらこう考えろ。“あぁこいつは、父親の演技に騙されてるんだな”と」

「っそんな簡単な事じゃない!馬鹿にされてるのを聞き流すことなんてできないよ!父さんは世界で一番最高の人だ……俺の自慢の父さんなのに…っ、俺の…」


ダミアンは溢れ出てきた涙を手の甲で乱暴に拭った。ブルースは片手でダミアンの頭をくしゃりと撫でた。


「お前も私の自慢の息子だ。だからこんな事で学校から“問題児”と思われるのは不本意だ」

「ひっく……うっ」

「お前が私の真実を知ってればそれでいい。我慢できるな?」

「……わかった……、努力する」


その時、電話が鳴った。

ブルースが通話ボタンを押すと車内のスピーカーからアルフレッドの声が流れた。


「ブルース様、○▽党の○○様がいらしています。昨日の件でお話したいことがあるそうです。お通ししますか?」

「昨日の件に関して謝る気もなければ、許す気もない!帰らせろ!!それと講演支援の件は白紙にし、今後一切関わることはない項も伝えておけ!」

「承知致しました」


自分に対して怒るより更に強い口調と表情で怒っているブルースを見て、ダミアンは目を丸くした。


「と、父さん…どうしたの?」

「なんでもない」


まさか昨晩のパーティーで、息子を過小評価された事が原因で口論になったとは、口が裂けても言えないブルースだった。


2015/10/23 −似たもの親子−





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