※「今日から化け物になった」より前に作成したので、同じ表現の部分があります↓


【コスメティックエイドリアン】

朝日が昇りきらない頃、ベッドの中では若者の熱心な口説きが展開されていた。
「ね、ねっ、いいでしょ」
「何時だと思ってるんだ……昨晩も相手をしてやっただろう」
「夜は夜、朝は朝!」
「……はぁぁ」
元気な奴だとうんざりしつつも、仔猫のような顔で抱きつかれれば、容認せざるおえなかった。
「協力する気はない。お前がしたいようにしろ」
「えーー、マグロってこと?そんなの寂しい!ブルース、お願いっ!俺の事好きでしょ?ね?俺はあんたのこと大好きだよ、死ぬほど好き!」
安っぽい言葉、けれども何の駆け引きもない真っ向な言葉に嫌な気は沸かなかった。
「……わかった…なにをすればいい」
「やった!俺に腕回して、キスして、それから……」


「はぁ、あぁっ、きもちいぃ、ブルース、凄くいいよ。ブルース、ッ、あぁっ大好きだよ、っ」
「っん、あァ、てぇ…りぃ……」
「ブルースッ……で…るっ、…」



ブルースが目を覚ました時、時刻は会合まで二時間を切っていた。準備をしようと起き上がった彼は突然襲ってきた動悸に胸を押さえた。細く息を吐き、心拍を落ち着かせているとテリーが入室してきた。
「ブルース大丈夫?!まだ時間あるから休んでていいよ」
「もう支度をしないと…」
「スーツも靴も用意してあるし、車の洗車も終わってる。髪の乱れを整えて着替えればいいだけだ」
テリーは優しくブルースを横にさせると、自分もベッドに横になった。
「どう?俺のスーツ姿は」
「シワになるぞ」
「少しくらいよれてる方が垢抜けてていいんじゃない?」
「馬鹿」
「ふふふ…」

深呼吸を繰り返すうちにブルースはそのまま寝てしまった。テリーはじっとその様を眺めていた。風が吹き込みカーテンが靡き、日射しが白いシーツを照らした。
日を浴びたブルースの睫毛は、プラスチックのように透き通っていた。誰よりも通っている鼻筋は人形のように精巧で、少し窪んだ眼窩の陰が肌の白さを浮き立たせていた。
まるで絵画のようだとテリーは思った。

白髪の乱れを整え、写真を撮れば、小さなシャッター音に気づきブルースが目を開けた。ブルーグレイの瞳と視線がかち合い、テリーはばつが悪そうに笑った。
こういう時の反応は、睨まれるかそっぽをむかれる事が9割、同じく笑ってくれる事が1割。ディック曰く、それでも凄い打率だそうだが、今回も幸運な事に1割の方だった。
呆れたように微笑んでいるブルースを前に、テリーは思った。自分はこの人に愛されていると自惚れてもいいだろうかと。
「……今、何時だ?」
「まだ間に合うよ」
「起こせ。支度をする」
「仰せのままに」
テリーがブルースの手を引き、額にキスをした。
「やめろ」
舌を出しおどけるテリーを無視し、ブルースは着替えを始めた。



テリーがまだ助手に成り立てだった頃、借りてきた猫のような状態でパーティーに参加していたテリーに声をかけてきた男がいた。
年齢はディックと同い年だったが、それよりも10も上のような風貌の男だった。実際にはディックが若く見えすぎるのだが。その下品な金持ちを代表したような男に、テリーは足先から頭まで値踏みされるように見詰められ、そして『あんな爺さんじゃなくて、私はどうかな?』と言われた。その時は、何を言われているのかわからず、僕のボスはあの人だけです。と答えたが、社会スキルをつけるうちに、あれは愛人契約の持ち掛けだった事に気がついた。

今、その男がまたテリーの目の前にいた。数ヵ月前よりも更に魅力的になっているねと男が微笑んだ。テリーは遠くで主催者と話しているブルースを見たあと、男の腕を引きながらバルコニーに向かって歩き出した。
「僕は魅力的ですか?」
「あぁ、とても」
「前と違いますか?」
「そうだね、色気が……更に」
「そうですか」
「以前の誘いを覚えているかな?君を満足させられるだけのものは持っていると思うよ。権力も資金も…」
「あっちのほうも…ですか?」
男が下品に、けれど心底嬉しそうな笑みを浮かべた。一方でテリーは綺麗な微笑みを浮かべていた。いつの間にか二人は人気のないバルコニーに辿りついていた。
「あぁ、でも僕。トップなんですよ」
「……え?」
「けど、あんたは抱きたくないなぁ。っていうか、男はあの人以外無理だし」
にこりとテリーが笑った。丁度その時、ブルースが辺りを見渡している光景を目の端に捉え、テリーは言葉を失い放心している男に「バァイ」と手を降りその場を離れた。

「どうしたの?」
「お前は先に帰ってろ」
「は?なんでさ」
「私は彼と少し話しがある」
彼って誰、と口を尖らせながらテリーはブルースの背後で輪をなしている男を見た。それはメディアにも露出している若手の起業家だった。歳は30過ぎで、イケメン独身。女性達から絶大な指示を受けている人物だ。丁度その時、青年とテリーの目があった。白い歯を見せ会釈する男とは対照的に、テリーは威嚇するような顰めっ面を浮かべた。
「なんの話すんの?」
「経営についてアドバイスが欲しいそうだ」
「この会場で済ませばいいだろ」
「見ての通り、彼は囲まれているだろう。だから別室をとったそうだ」
「はぁ?別室?なにそれ、きもいんだけど」
「好意を無下に出来ない。幾つか質問に答えてやるだけだ。すぐに終わる」
「だったら待ってる」
「話自体はすぐに終わるだろうが、このパーティーがある程度終わってからとなると時間がかかる」
「いやだ。アイツ何かいけすかない!」
「口を慎め、礼儀を弁えろ。変な男に捕まる前にさっさと帰れ」
「見てたの?」
「いいから早く帰れ」
「やだ!!」
「テリー」
「何かむかつく!むかつく、むかつく!!」
「静かにしろ」
「いやだ!!」

「揉めているようですが大丈夫ですか?君は……助手のテリー君、だよね?」
近付いてきた起業家に対し、無視を決め込むテリーの脚を杖で叩き、ブルースが軽く頭を下げ侘びた。男はにこやかな笑みと共に気にしていませんと答えた。
「ところでウェインさん、ディナーの準備が整ったようなので、よければもう部屋に行きませんか?」
疑問系にしながらも有無を言わさぬ誘導と、長時間の拘束を匂わす発言に、テリーの眉間が険しい谷を作った。何よりも男がすでにブルースの腕に手をかけていることが気に入らなかった。
「君のボスをお借りするよ、いいかな?」
「良くない。です!」
テリーは付け足した敬語と同時に男の手を払い落とした。
「っテリー!!」
「気にしませんよ。若いっていいですね。ではウェインさん行きましょう」
「ブルース……行かないでよ」
「テリー、しつこいぞ。もう帰れ」
「ブルース……ねぇ……頼むから…」
脚を止めブルースが大きな溜め息を吐いた。
「……大変申し訳ないが、ディナーはキャンセル願えるだろうか」
「…そうですか……。では次回を楽しみにしています。いつならご都合がつきますか?出来れば早々に予定を……」
男が手を上げると側近がタブレットを片手にスケジュールを確認し始めた。答えあぐねいているブルースを庇うようにテリーは前に出ると、側近のタブレットを取り上げ電源を切った。そして作り笑顔でこう述べた。
「生憎こちらは当分予定が一杯でして!後日、助手の僕から御連絡させていただきますので!じゃあ!!」
「ウェインさん、下までお送り致します」
「いえ、結構です!!あんたを待ってる女性達が後ろに控えてますし。あと、経営の相談ならうちのボスじゃなくても、あっちにいる禿げたおっさんの方がコンサルタントしてて詳しいと思いますよ」
「非常に役立つアドバイスをどうも有り難う、テリー・マクギニス君」
「どう致しまして、ダミアン・アル・グールさん」

ブルースが怒り出す前に、テリーは無理矢理に彼を引っ張り会場を後にした。振り返るとまだ起業家がじっと二人を見ていた。テリーが口形だけで『オレノモノダ』と言い放つと、男は先程までブルースに向けていた柔和な表情を一変させ、不機嫌を露にした顔で『イマニミテロ』と舌打ちつきで吐き捨てた。

エレベーターの中、テリーは説教を垂れるブルースを無視していた。
「おい、聞いてるのか!」
「聞いてない。つーか、あの男、あんたを狙ってるよ」
「そんなわけないだろ」
「ったく!わかってないなぁ!ネットであんたがなんて書かれてるか知ってる?そそる老人だぜ!」
「……馬鹿げた冗談だ。そもそも、私なんぞに欲情するお前みたいなのが特殊なんだ」
「あんたが特殊なんだよ!!」
「なんにせよ、彼には誠意を感じた」
「俺は敵意を感じたね」
「お前の態度が悪いからだろ」
「はいはい、ごめんなさい、二度と悪態はつきません。ほらこれで満足?」
次の瞬間、脳天にブルースの杖が振り落とされ、テリーは星を見た。



その頃、男は側近を連れ会場から部屋に帰って来ていた。
「畜生、あの野郎!!あいつ父さんを自分のものだと思ってやがる!!」
「っていうか、ダミアンあの子と血が繋がってるってことは兄弟ってこと?」
「黙れ、ケント!あの糞ガキは実験的に父さんの遺伝子情報を注入されただけで、まがい物だ!!」
「ダミアンも試験管ベイビーなんでしょ?」
「うるさい!!」
「どうどう、落ち着けって。ところで、このアースのウェインさんを連れ去るのはナシじゃないかな。あの子、死ぬまで追い掛けてくるぞ」
「……あぁ、わかってる。だから話すだけだ……。少しでいいから……一緒にいたい…」
「ん……わかった」
「いつも悪いな」
「いいぜ。だって俺たち友達だろ」



→唐突にダミアンを出したくなってしまった。別アースのダミミが、何やかんやでパパを守れなくて失なってしまって、純粋にパパ大好きっ子なダミミがパパが恋しくて恋しくて、大人になってから、色んなアースを旅して(方法は知らぬ)、色んなブルースと接して満たされない心を満たそうとして、逆に自分のパパとの違いに打ちのめされて、満たされる処か心が病んできてる。そしてそれに付き合っているクラークの子供じょん君。
ジョンブルがくるんじゃないかと楽しみ。ブルースを巡るクラブル+ダミブル+ジョンブルとかやばい。



2017/2/10 ―コスメティックエイドリアン―


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