ティムは可愛らしい縁取りがされているプロフィールと書かれている紙をダミアンの目前に突き出した。


「あのさ、お前知らないの?この国では同姓婚は認められてるけど、近親相姦は認められてないの」

「あ??きんしんそーかん?なんだそれ。ドレイクてめぇ言葉も喋れないのか?」

「はぁ?言葉を知らないガキに言われたくない」

「まぁまぁまぁまぁ、どうしたのさ二人とも」

「ディック!聞いてよ、この馬鹿ダミアン、いや、バカアンがさ、キランがみんなのこと知りたいからって配ったこのプロフィールにこんなこと書いたんだよ!!」


ディックが目にしたのは、<好きな人>の欄に『バ ッ ト マ ン』と大きく書かれた文字と『グレイソン』と小さめに書かれた文字だった。


「わぁ〜ちょっと、これ、僕の名前もあるじゃん!!ダミ可愛過ぎ!!これ写メ撮らせて!!」

「ちょっとディック!そこじゃないってば、問題はここ!!」


ぱしゃぱしゃと写メを取りながら、ディックはティムが指差す欄を見た。



<将来の夢>

『父さんと結婚して、アルフとタイタスも一緒に暮らす。たまにグレイソンが来る』



「ちょっと…これは…」

「ねっ、そうでしょ!さらっと問題発言書いてあるよね!こんなのキランに見せられないよ!それでなくてもバットファミリーはちょっと異常って理解されかけてるんだから!」

「ダミ最高。超幸せな夢じゃん!たまにっていうか頻回に行くよ!いいかな!?」

「いいぜ、来いよ」

「きゃーーー、男前〜!!!」

「ディックの馬鹿!!ばかばかばかばかばか!かば!!!」

「カバ!?」

「結婚ってなんだよ!!ブルースは永遠の未婚者でいなきゃダメでしょ!!っていうか、こいつとブルースが結婚したら、僕らの義母がダミアンってことになるんだよ!!そんな馬鹿げた話ってある?!」

「そうだね………ダミアンが弟じゃなくなるのは辛いな」

「そっちかよ!このカバ野郎っ!!!」

ティムは半泣きになりながらディックの胸をぽかぽか叩いた。

「わぁ、ちょっと、ティム落ち着いて」

「ドレイク、てめぇ、グレイソンに何すんだよ!」


わーぎゃーと駒鳥達が騒ぐ中、アルフレッドを伴ってブルースが部屋にやってきた。


「何を騒いでいる、みっともないぞ」

「ブルース、聞いてよ!!」


ティムがブルースに駆けだそうとした瞬間、焦ったダミアンはプロフィールを持つティムの指に噛みついた。


「いだいっ!!!!」

「ダミアンっ!!何してる!!」


ブルースは容赦なくダミアンを殴り二人を引き離すと、ティムの指を確認した。


「アルフレッド、救急キットを持ってこい」

「はい只今」

「血は出てないな。痛みは?」


殴られた衝撃でダミアンは尻餅をついた。抱き起こそうとしたディックの手をはね除け、ダミアンはブルースとティムのやり取りを恨めしそうに睨んだ。

アルフレッドが戻ってきて、ティムの指に包帯を巻いている時、ブルースは床に落ちている紙に気付き拾い上げた。

ダミアンもディックも「しまった」と目を見開き、ティムは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。


ブルースは険しい顔つきでそのプロフィールを眺めていた。


「駄目だ」


ブルースのその一言に、ダミアンは唇を噛み締め顔を伏せた。泣きだしそうな末弟の様子を見て、ディックはブルースに喰ってかかった。


「何が駄目なんだよ!素敵な夢だろ!?!我が子がこんなにあんたを愛してくれてるんだよ、可愛いとは思わないの!?」


ブルースは至極落ちつき払った様子で<将来の夢>の欄を指差し、ディックに差し出した。


「ここにティムとジェイソンの名前がない」

「「「へ・・・?」」」

アルフレッドを除いたその場にいる全員の声が重なった。


「か、書けばいいの?」とディックが間の抜けた声を出した。

「あぁ」

「でもドレイクとあの赤マスクとは別に逢わなくてもいいし…」

ブルースにじっと見つめられ、ダミアンは渋々「わかった…」と返事をするとプロフィール表を受け取った。


「ちょ、ちょっと待って、ねぇ、おかしいよ。みんなカバなの?ねぇ!?」

「うるさいぞドレイク。さっきからカバカバって、お前には人間がカバに見えるのかよ」

「あぁごめんね、カバじゃなかった。お前は糞猿だったね山に帰れ。っていうか、ブルース!!問題はそこじゃないよ!!結婚って、結婚って書いてあるんだよ!!幼稚園児ならまだ千歩譲ってもいい、だけど、こいつはもう10歳だ!」

「そうだな」

「わかってくれた?」

「ダミアン、私はお前の父でいたい。息子としてお前を大切にしていきたいんだ。結婚は次に生まれ変わった時でもいいか?」

「……それならいいよ」

「生まれ変わった時か〜、じゃあ僕は二人の子供になろっかな」

「わたくしめは如何いたしましょうか?」

「次も私の傍にいてくれ」

「みんなカバだったぁぁああああ!!!!もうやだっ!!早く帰ってコナーに泣きつきたいっ!!」



ティムがぐちゃぐちゃに書き直されたプロフィール以上にぐちゃぐちゃな泣き顔をして帰ってきたのを見て、コナーはティムが年々病んでいくのはバットファミリーのせいなんじゃないかと思った。





2015/10/23 −カバの汗はピンクらしい−





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