07,04.01

昼ドラ  『 拝啓 パパ上様シリーズ 』

第11話 「 田之介はA型 」


「あっ・・・・田之介。・・・・おはよう。」

「・・・・・・。」

某スーパーの従業員控え室では、気まずい雰囲気が流れていた。
挨拶をした当人の百鬼丸は、受け取られず、空気に溶けていった言葉に気まずさを覚え、
目線を田之介から床の染みに移した。
無言のままの田之介は、百鬼丸の顔を一度も見ずに、控え室を出て仕事に向かった。

「ちょっと、あなた達なにかあったの?」
その様子を見ていた、万代はパイプ椅子から立ち上がり、呆然と立ち尽くす百鬼丸の元に駆けた。

「いや、別になにも。」
百鬼丸は、震える声で小さくそう言うと、エプロンの紐を素早く結び、
「レジ行ってきます。」と言い残し、控え室から出て行った。
万代は、その後ろ姿を見て、ただごとではないことを感じた。

昨日までの二人は、互いのエプロンの紐を結びあうほどの仲の良さであった。
そんなことが嘘だったかのような、今の出来事。
そして何より、百鬼丸の今にも泣き出しそうな声が、事の重大さを伝えていた。
「・・・・・・店長の仕業かしら。」
万代の予想は見事的中していた。


ことの発端は、昨日の閉店後にあった。


〈 昨日の閉店後 〉


ロッカー室で着替え終え、帰ろう思った百鬼丸は、いつもはいるはずの人物がいないことに気がついた。

「・・・・田之介?」

呼びかけたが、相手の返事はなく、姿形もなかった。
「あいつ、まだ何かやってんのか?仕方ない、手伝ってやるか。」
百鬼丸はカバンを置いたままロッカー室を出た。

「どこいんのかな?」
この小さなスーパーのバックヤード※はコンテナやダンボールが山積みで狭く、入り組んでいた。
「にしても、歩きづらいな。」並んだコンテナを軽く蹴ると、向こうの方から話し声が聞こえた。
その声の主が田之介だとわかった百鬼丸は、その声のする方へ向かった。
バックヤードでも入り組んでいるそこにいたのは、紛れもなく田之介であった。
声をかけようと一歩踏み出した百鬼丸は、田之介が誰かと向かい合わせで話していることに気づき、足を止めた。
百鬼丸からは死角で、相手が誰だかはわからなかった。
一体なにを?そう思った百鬼丸は田之介から発された言葉に愕然とした。

「俺は、店長が好きです。」

百鬼丸は息を呑んだ。
― 店長?向かいにいるのは、あの多宝丸か!? ―
― 何言ってんだよ、田之介。いや、阿呆介!! ―

「すまない、俺には好きな人がいる。」

その声は紛れもなく多宝丸であった。

「だれですか?」 田之介の搾り出すような声が聞こえた。

「・・・・・・・百鬼丸だ。」


百鬼丸の息が止まった。


そこからは記憶がなかった。

気がついたときには、スーパーの出入り口のドアノブを握っていた。

「はーはー。」

息が荒かった。
たぶん、ここまで走ってきたのだろうと、百鬼丸は思った。
このまま、帰ろう。そう思いドアノブを捻った瞬間、
百鬼丸はロッカー室にカバンを置き忘れた事を思い出した。

先ほどのこともあり、戻るのは嫌だったが、
丸一日ロッカー室にカバンを置きっ放しにしとくのはさすがにまずいと思った。
どうか、田之介がいませんように。そう祈りながらロッカー室へ戻り、中に入った。



田之介がいた。

泣いていた。



百鬼丸は何も聞かなかった風を装って「どうした?」と聞こうか迷ったが、
その返答がおそろしく、何も言わないまま田之介の前を横切り、バックに手をかけた。
先に口を開いたのは田之介だった。

「・・・聞いてただろ?」

「え、何を? いや、俺さっきまで」

「聞いてただろ!!!」

田之介の怒鳴り声が反響した。

「・・・う・・ん。で、でも、でもな!!俺はあんな奴のこと好きじゃ」

百鬼丸の声はまたも田之介に止められた。

「お前は嫌いでも、俺は好きなんだよ!!!!」

伏せていた田之介の顔は上げられ、しっかりと百鬼丸を見据えていた。
百鬼丸は心臓を握り潰されたような苦しさに見舞われた。
それは呼吸が出来ないほどで、苦しさで指先が震えた。
立っているのが精一杯だった。

田之介は、田之介ではなかった。
百鬼丸の目の前にいたのは、友人ではなく、自分に敵意を向ける一人の男であった。
田之介が口を開こうとした瞬間、反射的に百鬼丸はロッカー室から飛び出した。


・・・・・・・


その日の夜、百鬼丸は、携帯の電源を切り、床(とこ)に着いた。
心臓は鳴り止まず、苦しさで死にそうだった。そんな状態で眠れるわけがなった。
百鬼丸は、隣で寝息をたてる我が子を見た。
口から涎を流し眠るどろろの髪をなでた。
柔らかいと思った。
少しだけ落ち着いた。

― この子のためにも、俺は・・・・!!!! ―


百鬼丸は翌朝、ある決意を胸に家を出た。



〈 今に至る 〉


昼食時、いつもは百鬼丸の向かいに田之介が座るはずだが、今日はいなかった。
田之介は昼前に上がった。
「体調が悪いそうよ。」隣に座っていたパート仲間達の話し声が聞こえた。
万代はその話に加わらず、一人煙草をふかしていた。どうやら、朝のことは黙っていてくれたようだった。
百鬼丸は、オロナミンCを一気に飲むと、殻の瓶をゴミ箱に入れ、勢いよく控え室を出た。

向かう先は、店長のいる事務室。

勝負が始まる。





次回予告

「 『ちょっと顔かしてくれますか。』百鬼丸のドスの効いた声に、多宝丸は口角を上げる!!!
そんな中、ついに副担任美咲が田之介を発見!!美咲の怒涛の攻撃が始まる!!
鳴り止まない救急車のサイレン!!集まる野次馬!!傷心の田之介は、まさに身も心もズタボロ状態!!!
その頃、醍醐刑事の新しい部下として任命されたのは・・・なんと三郎太だった!!!
昇進がこのタイミングで叶うとは、バットコミニケーション!!(意味不明)
これも醍醐の作戦か?!それとも、ただの人事異動か!!とにかく、三郎太はエリート公務員だったのだ!!!
一方、どろろはイタチ先生と居残り勉強。 『おいら、先生が父ちゃんだったら良かった。』 どろろが胸の内を告白。
そんなどろろにイタチが叫ぶ 『俺の生徒に手を出すな!!』 『ぬーべーか!!!!(どろろ)』
そして、密かに動き出す名探偵不知火。三郎太との契約がきれた今、百鬼丸母子の情報は自分しか知らない。
その魔の手は二人が住むマンションへと向けられた!!!!やばい!普通に犯罪者!!!


次回

「 あの、先生、この盗聴器・・・。探偵がこんなことをしていいんでしょうか? 」「黙りたまえ、みおくん。」

を乞う御期待。



※バックヤード:従業員出入り口の向こうのことです。スーパーの裏ですね。コンテナや商品が置いてあったりします。

※この作品は冗談で作っていますが、私は恋愛は性差に関係なく自由にして、何ら問題はないと思うのです。
ゲイの友人がいますが、彼は恋人と同居していて、とても幸せそうです。
ただ、世の中にには、そうしたくてもできない人が多々いると思うのです。
良い意味でフリーな社会になればいいなと思います。







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