世間からしたら俺達は異様なんだろうと思う。
笑えることに、遺産目当ての愛人とまで書かれた。俺と彼との関係は、ゴシップ好きの輩にとってはそんな風に様々な名称をつけれる逸材らしい。

「広告塔としてお金もらわなきゃね」

ゴシップ雑誌を見ながらブルースに笑いかけると、彼はいつも通りムスっとした顔でモニターを見ていた。カタカタとキーボードを打ちこむ指先は長く美しい。綺麗に整っている爪なんか見ると、育ちの良さを感じる。
ブルースの動作をじっと見ていると、彼がこちらを見ずに口を開いた。

「辞めてもいいぞ」
「………は?何を?」
「助手をだ」
「なに唐突に。この雑誌のこと気にしてるの?」
「…お前の事を気にしてるんだ」
「俺は平気だよ。むしろウケる」
「同級生や彼女、家族の目もあるだろう」
「ぁあ…」

確かに周囲で陰口を叩かれてるし、母さんもデーナも記事の真相をやんわりと知りたがったりするが、こんなのはデタラメ過ぎて説明する気にもならない。そもそも少年院上がりの身にとっては、今更周りの目なんて気にならない。それよりも、俺を気にするこの人の方が心配でならない。


めくった雑誌の文字に心の中で返答する。

俺が“金で買われてる”って?
バイトってそもそもが金で雇われるもんだろ。常識も知らないのか。
“元プレイボーイは実はゲイ?”
馬鹿だな、彼のセクシャルをそんな言葉で語るな。
“大富豪の新たな寵児”
新たなってなんだよ。こいつら過去にも同じような記事書いたのか?


雑誌を床に放り投げ、足で遠くに蹴り飛ばした。

「ねぇブルース。ゴッサムなんて捨てちまおうよ」

ブルースはキーボードを叩く手を止め、ようやくこっちを見た。

「この街も人ももう駄目だ。腐ってる。いっそ二人でどこか遠いところに行こう」
「テリー」
「なぁにブルース。俺は本気だよ。どこに住もうか?賑やかで便利な街もいいけど、景色が良い穏やかな街もいいね。何より大事なのは治安がいいってこと!」
「テリー」
「んー?」
「お前は優しい子だ」

ブルースの眼元がやんわりと笑みを象った。たまに見せるこの表情は、まるで絵画のように完璧だと思う。
こんな優しく美しい人を、世間は穢そうとする。
蹂躙して搾取していらなくなったら孤独にさせて酸素が尽きて死ぬまで閉じ込める。ブルース・ウェインもバットマンもそうしてこの屋敷に押し込められた。そうして今もまた彼は標的になっている。

「俺は優しくなんかないよ。あんたが思っている以上に残忍だ」
「そうは思えない」
「いいや、俺はあんたを守る為ならこの街の全てを敵に回せるよ。殺すことだって厭わない」

ブルースの身体がぴくりと反応した。殺すというワードに彼は過敏だ。今じゃそんな言葉ありふれ過ぎて幼稚園児だって使う世の中なのに。
つくづく純粋な人だと思う。子供の頃から幾多も世間の汚なさを味わってきたはずなのに。

「ブルース、綺麗だよ」

俺はどんな顔をしているのだろう。ブルースが驚いたように目を見開き凝視してくるのを無視して、彼の頬に手を添えキスを贈った。





「んっ…あっ…ぁあ……てりぃ……ぁあっ、あん」

ケイブでのセックスをブルースは嫌がる。声が反響するからだ。それに関しては俺は正反対の意見で、彼の声を何重にも聴こえる此処が好きだが、診察台でのセックスは場所が不安定でそこだけがネックだ。ブルースを落とさないように細心の注意を払う必要がある。

突き上げればブルースが身を捩った。その腰を掴み、徐々に手を上に滑らせ肋骨をなぞる。整った筋肉が骨を包んでいる。その奥にある内臓までも触ってみたくて、少し深く指を喰い込ませれば、ブルースが痛そうに呻いた。

「ブルース、少し痩せた?」
「……」
「体の調子悪いの…?大丈夫?」
「お前が……楽かと思って……」
「え……?」
「軽い方が……扱いやすいだろう?」

あぁ……ちくしょう。この人はどうしてこうなんだろうか。
この飛び切り甘い飴が欲しいがために、俺はどんな鞭をも耐えれてしまう。二重生活でろくに睡眠時間も無いというのに。
この人の無自覚に飴と鞭を使いこなす様は天賦の才だと思う。一体今まで何人の人間がこれの犠牲になったのだろうか。

「ブルースはちっとも重くないよ。いつも誰が運んでると思ってるのさ」
「……」
「でも、こうした時にはブルースが楽かもね」

俺は繋がったままブルースを抱え起こし、胡座の姿勢をとった。彼の腰から手を離せば、重力で俺のモノが深く突き刺さった。ブルースの指が肩に食い込んで少し痛かったけど、その顔をみたらどうでもよくなった。本当にそそる表情ってのはこういうもんだと、女性陣は勉強した方がいい。
腰を突き上げれば、ブルースの悲鳴のような喘ぎ声がケイブに響いて、こうもり達がキィキィとざわめいた。



ブルースがイク時の反応はエロい。断続的な喘ぎ声をあげ全身をびくつかせ、長い手足を俺に絡ませ助けてくれと言わんばかりにしがみついてくる。他の言葉を忘れたように、俺の名前だけを何度も何度も呼んで、そして達する。

彼はもう年だからそうそう射精はしない。けどイッたかどうかは、すぐわかる。ナカが痙攣して俺を締め付けた後、糸が切れたようにぐったりと身体を預けてくるからだ。

ブルース本人が一度だけ教えてくれた。頭の中で星が弾けるそうだ。まるで花火のようだと。なんとも可愛らしい。俺の腕の中で、彼は花火を観ているんだ。


「あっ、あぁ……あつい…っ、てぇりぃ…てぇ…りっ、ぃ、あ……くるしぃ……っ、はぁ、ぁっ……ぅう…ぁっぃ……っ」

ブルースの息が異常に上がり、汗が大量に流れ出した。はぁはぁと苦しそうな呼吸が続く。イク時の反応じゃない、これはやばい時の反応だ。

ブルースを抱き締めたままゆっくりと横になると、俺はまだまだ元気な息子を慎重に引き抜いて彼の背中を擦った。ブルースのとろりと蕩けていく瞼が完全に閉じたところで、彼を抱えて寝室まで移動した。
ベッドに寝かせて、そのすぐ隣で一人オナって抜いてから、ブルースを抱き締めた。
こんな日も珍しくはない。薬を飲ませなきゃいけないハメにならなかっただけマシだ。


眠っている彼に口付けしながら、プラチナのような白髪を梳き、青白い首筋を撫でた。血が脈打つのを指先で感じる。
生きている。
それを確認する度に、涙が出そうになるのは何でなのか未だにわからない。
彼の寝息だけが聞こえる静かな世界で瞼を閉じた。朝なんて来なければいい。

二人ぼっちの世界は少し切なくて、けどこんなにも幸せだ。
2015/12/21





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