ハルには理解できないことがあった。

それは、あの男バットマンが好かれる理由だ。


この蝙蝠、愛想など無に等しい。人に好かれようという気持ちが丸きり一切ないことが態度に十分に出ている。なのに何故かジャスティスリーグの面々は彼に対して好意的で、ハルが下手に悪口など言おうものなら、こちらの方が攻められてしまう始末だ。特にスーパーマンとワンダーウーマンに関しては、お前らは蝙蝠ファンクラブかとつっこみたくなる程で、事実『次、バットマンを運ぶのはどっちがする?じゃーんけーん』等という薄ら寒い遣り取りをしているのをハルは見たことがあった。

仲のよいバリーは元々人の悪口を好まない男であり(まぁ、そんなところが良くて友人をしているわけだが)、蝙蝠への悪態をついて彼を困らせるのは不本意だった。



そんな折のことだった。

ジャスティスリーグの新メンバーをみなで検討した際、バットマンが候補として呼び出したのはナイトウィングという青年だった。

しかし青年は到着早々に怒りを露わにし、蝙蝠に対して手酷く何かを言い残すと帰っていった経緯がある。恐らく青年の事情を考えずに唐突に呼び出した蝙蝠の傲慢さに怒ったのではないかとハルは考えた。調べてみると、この青年と蝙蝠とは意見の食い違いが過去に多々あったことが発覚した。こいつとなら楽しいとまではいかなくとも、多少なりとも理解しあえる蝙蝠談義(という名の愚痴)ができるかも知れない。ハルは青年と話がしてみたいと思った。




そして現在に至るのだが…………



地球のとある喫茶店。

最初はにっこりとハルの蝙蝠への愚痴を聞いていたり、自分もぽろぽろと蝙蝠への文句を漏らしていたディックだったが、それが文句というよりも心配性かつヤキモチに近い言葉だなとハルが気付いた時にはすでに遅かった。今、ディックはハルに掴みかからん勢いで「あんたに彼の何がわかる!?」っと牙を向き怒鳴っていた。


ぬるくなり、味もよくわからない薄さのコーヒーをすすりながら、厄介な奴だったとハルは脳内でごちた。こちらをヒートアップさせ、全て聞き出す作戦だったに違いない。もちろん、裏で手を回してるのは………


「バットマンだろ?アイツに俺から色々聞き出せって言われて来たのか?ったく、陰気なヤローだぜ」

「は?彼がそんなこと言うわけないだろ。っていうか、こんなこと彼に伝えられるか!あんたは知らないだろうけど、彼はね、傷つきやすいの」

「そうは見えねぇけど」

「あんたがそう見ないだけ!あの人ほど優しい人なんていない!」

「は?」


ディックはふんと鼻を鳴らし、店を出て行ってしまった。

しばし呆然としていたハルだったが、店員が会計のレシートをテーブルに置いたことで我に返った。


「あっ、金!!あいつ、食い逃げしやがって!今月も金欠になったじゃねぇか!!畜生!!」




後日のウォッチタワー。

先日の件でのイライラをどう蝙蝠に仕返そうかと考えているハルの元にやってきたのは何とその蝙蝠だった。彼から来ることなど滅多にない。ハルが面くらっている中、バットマンは封筒を彼に差し出した。いつもの高圧的な態度が影を潜め、どことなく申し訳なさそうな雰囲気まで滲み出ていた。


「この間の食事代だ」

「は?」

「先日、うちの子が世話になったと聞いた」

「え……」

「本人からでなはなく、その彼女から話を聞いたのだが。金を払わず帰ったと聞いて…。何の話をしたかは知らないが、あの子は感情の起伏が激しくてな…特にここ最近は。もしお前に粗相をしていたら申し訳なかった。どうか許してやってくれ」

「べ、別に、何も、」

「そうか……これに懲りず、仲よくしてやってくれ」

「あ…ぁあ」

「ありがとう」


バットマンの口元が一瞬笑みを象り、そしてすっといつもの仏頂面に戻ると踵を返し立ち去って行った。その後ろ姿をぼうっと眺めていると、遠くでスーパーマンに捕まっていた。


『やぁ、ブルース!昨日、クリプトの散歩中にね、なんと大きな』

『おい……クリプトの体調は回復したのか?』

『あ、そうそう、もう三日前くらいから元気になってね!君が紹介してくれたあの動物病院すごく良かったよ!』

『そうか』

『それでね、話は戻るんだけどね、大きな〜…』



ハルは思わず微笑んでいた。

バットマンが好かれる理由が何となくだが、わかった気がした。


今度またあの青年に会うことがあれば、蝙蝠が好かれる理由についてハルなりの解釈を説明するのも面白そうだと思った。おそらく『あんたが彼を語るにはまだ早すぎる』なんて言われそうだと思いながら。



2015/10/23 −ドゥーユゥーアンダスタンンンンドゥ!−





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