【フレーバー】クラブル前提のテリブル

土曜はアッサム
日曜はカモミール
月曜はダージリン
火曜はローズ
水曜はジャスミン
木曜はベルガモット
金曜はブランデー

大好きなあの人とのキスの味。
だから金曜は嫌いだ。あの男を思い起こさせるから…


きっと何年も何十年も、あの男の週末の仕事が終わり、羽目を外せる金曜日に、この人は酒を煽って待ってたんだろう。
その張本人である元記者は、今や宇宙の平和を護るただの超有名人だ。ちなみに宇宙人。地球にすら滅多に戻ってこないのに、この人のところになんて……論外だ。現に数十年ぶりにあった二人は、ブルースが一方的に拒絶し警戒してた。
ざまーみろ、自業自得だスーパーマン。あんたはもうブルースの一番じゃない。あんたはもうブルースに愛される資格なんてない。あんたはもうブルースの金曜日を返さなきゃいけない。あんたはもう…

「ブルースに期待させるのをやめるべきだ」
「何をだい?」

わかってる顔で奴が微笑む。コメカミに生える白髪はブルースのものよりも灰色を帯びていて、まだ若々しく見える。でも生えそろった白髪の方が美しいと思う。
「すまない、テリー。意地悪を言ってしまったね」
大人な対応だ、ブルースよりもずっと。俺よりもずっとずっと。
「期待か……期待してるのは僕の方だよ。彼が僕を求めてくれるのを待ってる」
「…求めさせない。あの人には俺がいる」
「今はね。でも永遠じゃないだろう?」
「あんただってそうだろ!何十年もブルースを放っておいた癖に」
「見守ってたんだよ、ずっと。遠くからそっと。大切に…してた。これからも永遠にそうしていく、たとえ彼がそれを望まなくても。君が彼を愛していても。ブルースは僕のものだ」
「スーパーマンがヴィランだってこと初めて知ったよ」
「はは」

笑ってればいいさ。いつか金曜は、カラメル色素たっぷりの人工甘味料まみれの炭酸飲料水に替えてやる。絶対にだ、絶対に。いつしか耳にした“アレを飲むと骨が溶ける”っていう都市伝説マジだったらいいのにな。あの人の遺すもんは何も無い方がいい。誰にも奪われないように全部無くしてしまいたい。そして空気だけになったら全部瓶に閉じ込めて…

俺のフレーバーは全部あんたでいい。あんたがいい。俺だけのあんたがいい。




【俺より先に逝くあなたへ】テリ→ブル

あなたが俺より先に死ぬのはほぼ目に見えていることで。俺があなたにあげれるものは、ほんの少ししかないのに、あなたが俺に残していくものは膨大なほど多い。
とりわけ悲しみは計り知れないものだろう。


本日のスープはパンプキンポタージュだ。
ブルースの作ったスープを飲み下す時、毎回思うことがある。『うまい』と『時が止まればいいのに』ってこと。

向かいに座り、味はどうだとでも言いたげな目をしているこの人は、あぁ、うん。俺より早く死んでしまう。滅多なことが俺にない限りは、先に逝くのが自然の摂理だ。
このスープは過去のものになるし、この人との時間は二度と来なくなる。年月と共に記憶は霞み改竄され、脳の中で消えていく。そうして、いつか思い出せなくなる日がきて、この人はどこにもいなくなってしまう。

これ以上に恐ろしい事があるだろうか。

“死”は当人にとっては終わりだろうけど、こっちからしたら喪失の始まりだ。遺される俺の気持ちを無視して、この人はいつか旅立つ。
きっと、さよならもありがとうも愛してるも云わず。ぱっと夢みたいに、始めからいなかったように、いなくなるんだ。そうなったら、俺はきっと死ぬほど辛い。
可哀想な俺。この人に置いてかれる俺。一人になる俺。……どういう気持ちになるんだろうか。気持ちが沸くのかも危うい。感情も何もかも死ぬんじゃないか、それって怖いな。生きてけんの?

「不味いなら不味いと言え」
「へ…?」
「泣きそうな顔をしてまで飲むな」
「え…そんな顔してた…?いや、違うんだよ!スープすげぇ旨いよ!うん、ほんと美味しい。美味しすぎて…ずっと飲んでたいなって……思った…ら……。あ、はは、なんか涙がさ」
「……なぜ泣く」
「わかんない……でもなんか何か泣けてきて……」
「…変な奴だ」
「……ブルース……俺、生きていけるかなぁ……っ、あんた無しで……無理だよそんなの……っ」
「…………ふっ、生きていけるさ」

なんで笑うんだよ。笑えない時に限って、本当に幸せそうに笑う癖をどうにかしてくれ。

「時間が憎いよ……あんたを奪う」
「私は感謝しているがな」
「なんでさ……自殺願望でもあんの?」
「時がお前を育んでいく。それ以上に喜ばしい事などない」
「……ずるいよ」
「そうか」
「うん…マジでずるい」
「そうだな。昔、お前と同じことを言った事がある。私の親がわりだった執事にだ」

ブルースの視線の先を追えば、いつもの場所に行き着く。写真たての中には、すっとした背筋で立ち、飄々とした表情をした初老の痩せた男性が写っている。

「彼は言ったよ『私から時を奪わないで下さい。私の大切な宝なのです。今この時も、これからも。貴方と過ごせるこの時間は、憎むものではなく慈しむものです』と。テリー、私達は失うのではなく、得ているんだ。だから泣くな。この時間を味わおう」

あぁこれだから、年寄りの戯言ってやつは嫌いだ。いつも俺を追い詰める。死なないでよ、それすらも言わせてくれないのなら、せめて、愛してるくらい言わせてくれよ。




【17歳は愛する苦しさを知り、老人は愛される苦しさを思い出す】テリ→ブル

その日、ブルースはとても疲れていた。テリーの授業が終わった頃を見計らい、今日の任務はなしだと連絡を入れた。喜ぶテリーが理由を尋ねるより先に通話を切ると、ブルースはいつもよりも早めの就寝についた。

テリーは久しぶりにボス公認となった休みを満喫しようと、彼女とクラブに出てきていたが、運悪く2軒向こうのクラブでジョーカーズが暴れ出し、彼は常時携帯しているスーツを着込まなくてはいけなくなった。
戦闘中、何度もブルースに通信を送ったが、なんの返答もなかった事を不審に思い、テリーは事件解決後バットマン姿のまま屋敷へと飛んだ。

がらりとした誰もいないケイブでスーツを脱ぎ捨て着替えると、時計が夜中の二時を指しているのを確認し、テリーは主の寝室へと向かった。
テリーがぎりぎりまで近付いても、ブルースは眠ったままだった。名前を呼んでも反応がなく、思わず揺さぶり起こしそうになるほど焦ったが、胸郭が静かに上下しているのが確認でき 、テリーは安堵のため息を零した。

少年と青年の狭間にいるテリーには、ここ最近ずっと悩んでいる事があった。人生経験豊富なブルースであれば答えられるかもしれないが、その悩みが当の本人にあるのだから言えるわけがなかった。テリーはそっと手を伸ばすと綺麗な白髪を撫でた。
「ねぇブルース、うんと年上の同性を好きになった場合はどうしたらいいの?」
ブルースの唇が動くことはなく、ただ規則的な吐息が漏れているだけだった。テリーはゆっくりと顔を近付けると、震える己を叱咤し、ブルースの瞼にキスをした。彼女には幾らでも気兼ねなく出来るキスだが、相手が違うだけでこんなにもハードルが高い事なのだと知った。テリーが知らないことをブルースは教えてくれる。嬉しいことも苦いことも、そして今のように辛い事も。
じっと眺めているテリーの気配にようやく気付き、ブルースの瞼がぴくぴくと震え青い瞳が現れた。目前にいるテリーに一瞬ブルースは身をびくつかせると、素早い動きでテリーの頭を軽く叩いた。
「驚かせるな。今日は休みだと言っただろう」
「あぁ。でも折角の休みを馬鹿ピエロ共に奪われた」
「そうか…ご苦労だったな」
「今日は珍しいね…こんなに熟睡してるなんて」
「こういう日もある……」
「そうだね、いいと思うよ。俺も疲れちゃったなぁ」
なんとなしにテリーが放った言葉に、ブルースは思案するようにゆっくり瞬きをしたあと、自身の隣を叩いた。
「寝るか?」
「え、ぇえ?!そ、そんなつもりじゃ」
なかった。と言い切るのをテリーは止めた。
「……いいの?」
ブルースがyesの代わりにシーツをめくった。

おずおずと入り込んだテリーの鼻腔をリネン用香水がくすぐった。 寝具に香水をかけることも、部屋にフレグランスを撒くこともテリーはこの屋敷に立ち入るようになって初めて知った。金持ちは違うなと出会った当初は少し馬鹿にしたように思っていだが、この習慣がブルースの趣味ではなく、彼の大切な執事を偲んでのことだと知ってからは、優しい彼の気持ちが香りに現れたそれは逆に好ましいものになった。
日を追うごとに屋敷にある全てのものが愛おしく感じていた。そして今、すぐ隣で眠る主が最も愛おしかった。17歳の宝物は今静かに瞼を閉じている。

テリーのボスはテリーのボスであるが、ブルースはテリーのものではなくブルース自身のものでもなかった。ブルース自身が持てあましている身をテリーは救いたかった。


月日と共に同じベッドで眠る機会は増え、いつしかそれは習慣となった。
ある晩のことだった。テリーはブルースの真上に乗り上げると大粒の涙を降らした。
「ごめん、好き、好きなんだ……ブルースは俺のこと嫌い?」
「…嫌いじゃないが…お前をそういう目で見たことはないし………見れない」
苦しげな返答よりも伏せられた瞼によって薄いブルーアイズが見れなくなった事にテリーの胸はきつく締め付けられた。青年は泣いて泣いて、泣いた。答えようのないブルースはただ柔らかく細い黒髪を撫でるしかなかった。慰めなどいらない、テリーの心は叫んだが唇はそれを紡げなかった。心が違ったとしても触れられる手を退けたくはなかった。ブルースの優しさが炎のようにテリーを焼き焦がし、青年は一層強く泣き咽んだ。
どうにもならない事を学ぶのには17歳はまだ若い。



【難攻不落の心臓】テリブル

何時もよりも激しいセックスをした日のことだった。射精し終えたペニスをブルースから抜き、スキンを取ろうとしたところで、テリーは固まった。
スキンの先に血が付いていたのだ。
あわ、あわわわという間抜けた声を出しているテリーを、ブルースがだるそうに見上げた。
「どうした?」
「ち……血が……っっ」
ブルースはテリーの視線の先にあるスキンの紅を見て、あぁ気がつかなかったと思った。
「ブ…ブルース、大丈夫?ね…ねぇ、ごめん…痛くした」
「別に平気だ」
「で、でも……」
「本当に大丈夫だ、テリー。腸壁が弱ってるんだろう」
「ブルース…次から優しくするから、本当に…俺…ごめん」
ブルースは顔を綻ばせると、テリーの頭を撫でた。思わずテリーの唇から「愛してる」という言葉が飛び出た。 ブルースが高頻度に眉根を寄せるワードだ。そして今回も例に漏れなかった。

いくら愛を告げても、年の数だけ強固になったブルース・ウェインの心臓は貫けない。テリーの最大の悩みだった。



【この手、この私、この…】テリブル

柔らかく小さなこの手はゴッサムの宝だと言ってくれた、執事はもういない。
大きくて逞しいこの手は僕らの憧れだと言っていた、駒鳥達ももういない。
白く美しいこの手は僕だけのものだと言っていた、恋人ももういない。

私には、老いぼれ嗄れた手しか残っていない。
この手から滑り落としてきたものは数多あって、その数だけ自分の愚かさが理解できる。

老醜という言葉がある。
文字通り、老いは醜い事、もしくは老いた者は心身ともに醜く見えるという意味だ。
そんなことはない経験を積んだ分だけ美しさがある、などと我が執事を見て若い頃は思ったものだが、自身が老いれば老いるほど、なるほど合点のいく言葉だと身をもって体感している。彼はきっと特別な人だったのだろう。

若さが全てとまでは言わないが、自由に動き回る若者を見ていれば羨ましいと思わざる得ない。あれだけ闇を纏っているにも関わらず新しいバットマンは眩しい。

バットマンとして活動していた頃は、いつ死んでもおかしくないと思っていたし、短命だろうと思っていた。それがどうしたことか。皮肉なものだ。

テリーがしわがれたこの手を握り「愛してる」と告げてくる。私は聞かなかったふりをする。幾ら繰り返すつもりだろう。耳まで遠くなったのかよと若造が悪態をつく。口の減らない奴だと私が罵る。笑いあう時間は、生きてきた人生への褒美に感じる。私は生きていてもいいのか、自分への問いかけを束の間忘れられる。
「心まで遠くに行かないでよ」
干涸らびた手に、瑞々しい唇が触れる。罪を犯している気がするのは、まだ私の脳味噌が腐っていない証拠だと思おう。



【クレイジーボーイに手綱は付けれるか】テリ→ブル

テリーがおかしくなった。
つい一週間前から、とある言葉ばかりを言ってくる。
それしか考えていないような眼つきでもって、サイのように突進してくる若造を交わすのは骨が折れる。実際、交わしきれず転びそうになったら、まるで陶器でも扱うかのように助けられた。

「ありが……とうじゃない、元はと言えばお前のせいだ」
「どう致しまして。お礼にセックスさせて」
「またそれか……」
「ヤらせてくれるまで何度だって言い続けるよ!!それが嫌だったらさせて!!」
「……戦闘時に頭でもぶつけたのか?」
「俺は正常だよ!!でもこれ以上は無理だ!もう耐えられない!!おかしくなる!!」
「いや、もうなってるだろ」
「どうして!?ブルースだって俺位の年頃の時こうじゃなかった!?」
「お前くらいの年の頃には復讐の事しか考えてなかった」
「まじかよ…。そうなんだ…そっか…とりあえず、しよう」
「私の話は無視か」
「ヤッてから話そう」

ブルースは深い溜息をついた。

性交は心底したくなかった。すれば、それだけの関係になる事は明白だった。

「何故、私を抱きたいのか意味がわからない」
「俺の方が意味わかんないよ!!好きだって告白した!わかったって返ってきた!で?!それでこの仕打ちなわけ!?」




【嫌い、好き】ディック→ブルース前提の、テリブル

あの人に新しい恋人が出来た。
数十年ぶりだろうか。
今回の件は、完全に俺のミスだった。監視不足だった。バットマン引退と同時に引き籠り始めたあの人は、男は元より女性との関係も一切断っていたから安心し過ぎていた。
何とまぁ、あの歳で、随分と若い青年を虜にするんだから、さすがだと笑うしかない。

最近急に社長復帰してメディアに取り上げられる事が増えたあの人は、雑誌の見出しの通り「世界一美しい老人」という言葉も、まぁ誇張ではないと思う。
幾分か猫背にはなったが、長脚はそのままに、やや筋ばった筋肉に覆われた上半身、そして通った鼻筋の横には、美しいブルーの瞳が二つ。今だ健在だ。

久しぶりに逢ったというのに、にこりとも笑わないのは、昔と変わらない。そんな老人の隣で笑うのは……

“テリー・マクギニス”

まだ年若い青年は、何となく昔の自分を見ているような風貌と性格をしている。会うなり馬が合って、今では俺を慕ってくれている。もう還暦に近いこんな年になって、取った取られたなどと色恋沙汰で騒ぐほど俺はもう元気じゃない。だけれども、ちょっと悔しいってのはあるな。

テリーと二人の時、雑談の後に必ずと言っていいほど、ブルースに纏わる話しになる。愚痴、苛立ち、怒り。
「あぁ、わかる。ほんと、そうだよな」
相槌の数ほどテリーの目が輝く。
グレイとターコイズブルー、そしてホワイトパールを混ぜたような神秘的な瞳が、煌めき、そしてふと閉ざされる。
『でも……愛してるんだ』
あぁ。テリー、それだけは頷けない。俺は静かに、そうかと言うだけ。17年生きてきた中の数ヵ月と、俺の何十年もの《愛してる》は違う。重みも何もかも、違うんだよテリー。俺はそれをあの人に言えなかった、それが最も違うんだ。羨ましい、怨めしい、だけど頑張れ。
相反する感情は、まるであの人への気持ちと同じだ。



【駆け引きはいつも負け】テリブル

ブルースがベッドの中でごくごく稀にみせる甘えは大抵テリーにとっては受け入れたくない要求がらみだ。それでも彼の演技や口車に巧いこと乗せられて、受け入れてしまうのが常だ。

例えば、自分の腕の中から老人を出したくない時、「起き上がりたい」と上目遣いで言われると、それだけで心は60%まで動いてしまう。それでも「離したくない」と断固拒否すれば、今度は鼻と鼻が軽く擦れるほど顔を寄せ、プリーズと頼んでくる。一人じゃ起きれない、なんて弱味をみせてくることも。そうすると100%なってしまい、操り人形のように腕が開いてしまうのだ。

「まだ5時だ。戻って来てね」
「……わかった 」
「約束を破ったらお仕置きね」
「あぁ、私を殴ってもいい」
「ずるい!そんなのできるわけないじゃん!いじわる」
「ふっ。それと、もう五時だ。おはよう、もう起きろ」




【鳥籠はぶち壊してやりました】テリ→ブル

恋人からも家族からも仲間からも孤立したこの人は、どんな気持ちで過ごしてきたんだろうか。

俺を手放さないのも、俺の我が儘を聞いてくれるのも、きっとそこから起因しているのだとしたら、ちょっと申し訳なくて、かなり嬉しい。

小鳥達が暴けなかったあの人を俺は奥底まで楽しんでるよ、ざまぁみろ。意気地無しどもめ。この人を捨てて逃げたのだから二度と戻ってくるな。もう鳥籠はない。お前らの時代は終わったんだ、早くブルースの心から出てけ。ったく。



【ハイエナ】テリ→ブル

無自覚というのはタチが悪い。悪気や魂胆があるのならばそれなりに対応が出来るが、本人に自覚がないものをどうにかすることは難しい。だが、そんな悠長な事を言ってられやしなかった。彼は華の高校生なのだから。

「というわけで、それやめて」
「は?どういうわけだ?」
「そうやって小指立てて紅茶飲むのやめて」
「お前に指図される言われはない」
「あと長い脚を組むのも駄目。ついでに言うと、スープ飲む時にいちいちナプキンで口元拭くのもやめて」
「………言いたいことはそれだけか?なら殴られる準備をしろ」
「そうやって座ってる時に上目遣いで睨むのもやめて!!指先同士を合わせて考える仕草するのもやめて!!!」
「歯を喰いしばれ」
「だってエロいんだもんっ!!誘ってるつもりがないんなら、やめてっっ!!!」
「はぁ?何を言ってるんだお前は」
「この際だから言わせてもらうけど、 ブルースって人の目をじとっと見る癖あるじゃん」
「観察してるんだ」
「それって勘違いさせるから止めたほうがいいと思う!」
「はぁ?感じが悪いってことか?別に私はそう思われても気にしない」
「そうじゃなくてさ…なんていうか、男ってじっと見つめ続けられると、その人のことが気になってくるっていうか…」
「何を言いたいのかわからん。はっきり言え!」
「あんたにじっと見られたら、好きになりそうって言ってんの!」
「………なにを馬鹿な」
「…なんで距離とるのさ」
「べ、別に」
「明らかに警戒してるよね」
「してない」
「してる」
「はぁ………昔もそんなことを言われた」
「誰に?スーパーマン?ナイトウィング?」
「なぜそこで女性の名前が出てこないんだ」
「だってどうせ女性じゃないでしょ」
「………」
「ほら、正解じゃん。で、なんで逃げるの」
「いや……」
「もしかして、そのあと襲われたとか?」
「………」
「デジャブになりまーす」



【おわりのおわり】テリ→ブル

この人のこんな顔を初めて見た。
ゴードン市警察本部長が、泣きながら怒っている。
「あんたは何なの?!」
なんなんだろう、俺もわかりません。
そう言ったら頬を叩かれた。痛くはない。全然。でも涙が出た。なんでだろう、それもわからない。どうしてこうなったのか…わからない。

一週間前、ブルースが死んだ。

天気のよい真昼、街中で背中を刺されて。

病院に搬送され、それから3時間ほどで絶命したらしい。刃先が肺にまで達していたと。
らしいっていうのも、おかしな話だ。俺がブルースに会えたのは、彼が死んで2日後、遺体安置所に忍び込んだからで、つまり俺には何の連絡も無かったのだ。
ブルース本人から助けを求められることも、ゴードン本部長に知らせを受けることもなかった。ニュースで知ったのだ。その時の衝撃ったらなかったが、逃げた犯人の特徴に、もう何がショックなのかわからなくなった。

バットマンとして、ブルースを刺した犯人を捕まえた。
「だってアイツが悪いの!私の愛する人を奪ったから!」
自分の彼女を逮捕するのが、俺の最後の仕事だった。
それ以降、スーツは着なかった。



【独占欲】テリブル

高校生って皆こうなんだろうか?いやまぁ確かに男同士でつるむと下ネタ満載のゲスい話になるし、いつでもどこでもヤレるようコンドームは持ってるのが常識だ。長期休暇明けは、同級生の数名は妊娠で中退するし、俺だってデイナとすることはしてる。もちろんゴムつけて安全日だけっていう万全の対策はとってる。

そんなこんなでヤりたい盛りなのは自覚してる。
でも、孫と祖父ほど年の離れた、しかも同性に対してまで欲情するのが普通だとは到底思えない。

だから俺はこれを異常なほど忙しい夜の仕事のせいによる判断力低下と、バトル後の興奮状態による性的衝動だと思い込むようにしていた。
けど…………けどだ。
最近はちょっと違うんじゃないかって思ってきている。いや、確信に近い。正直に言おう。
現在進行形で生のチンコ突っ込ませてくれているこの元ヒーローの事が、好きで好きでしようがない。

もし敵を倒して帰った先にデイナがいても、今をときめくグラビアアイドルがいても、セックスの超絶うまい美女がいても、俺は抱かないだろう。だってブルースじゃないから。
あぁ、言ってしまった。そうだよ、俺は

「ブルース、愛してるよ」
「ん……ぁ……てりぃ……」

俺たちは今、ケイブに備え付けのシャワールームでセックスの真っ最中だ。どうしようもないゴーレム使いの元同級生を再度アーカムに戻して、俺は疲労困憊。なのに俺の息子はびんびんで、汗を流すついでにと、ブルースをここに連れ込んだ。

エースがまじで威嚇モードに入ってたから俺の気迫は凄いもんがあったんだと思う。申し訳ないけど、エースはケイブから出させてもらった。

突き上げればブルースが身を捩った。

ブルースともっと早く出会ってたらと思ったことは何度もある。けど、もしこの人が若い頃に出会ってたら気が気じゃないと思う。こんな人だ。女性は勿論、男にだって人気がある。いつもやきもきしなきゃいけないのは無理だ。そう思うと、いま、俺が独占できてるってのは奇跡、いや運命なのかも。

「っあっ、ああん、あ、て、り、ああっ、くるっ……はぁ、あ、ぁっぁっぁ……」
「あっ、ごめん俺…気持ち、良すぎて、も 、でるっ」



【goodbye boy】クラブル前提のテリブル

その晩、愛を告げる俺にブルースは悪態をつくことなく、ただ静かに微笑んでくれていた。俺は単純だから珍しいこともあるもんだと、嬉々といつもの様に彼を抱いた。今、思えばあの時点で気付くべきだったんだ。

明け方、小さな喋り声でうっすら目が覚めた。ベッドの隣は空で、でもすぐ傍にブルースが立っているのが見えた。薄暗い部屋の中と、寝ぼけ眼では、大体の輪郭しか見えなかった。
『good bye, mcginnis』
ブルースがベッドから出て行く時にたまに言う嫌みが聴こえた。寝続ける俺に対して時折言うのだ。でもいつもよりも優しい声に、「good bye,bruce」と返事をして目を閉じた。

ブルースを見たのはそれが最後だった。


ブルースはそれ以来、姿を消して、エースもいなくなってた。すぐさまゴードン本部長に連絡し、ナイトウィングも駆けつけてくれた。でも、ブルースの痕跡はどこにもなくて、俺は記憶の中にあるブルースとの最後の日を何度も何度も思い出しては探った。ブルースが喋ってた声で起きたんだ…喋ってた…そうだ、誰かと彼はいたんだ!!誰かがブルースを連れ去ったんだ。

数カ月後、文字通り血の滲むような苦労の末、ようやく訪れることが出来たJLの本部にやはりブルースはいた。隣にスーパーマンが立っている。あぁ、だと思った。
「なんでこんなとこにいるんだよ」
「テリー…」
「俺がどれだけ捜したと思ってんだよ!!なんでなんだよ!!答えろよ!!!」



【テリーの動く城】

「テリー、待ってろ!今いく!!」
その声を最後に俺は意識を手放した。


目が覚めれば、白いエプロンを着たブルースが俺を覗き込んでいた。起き上がり辺りを見渡せば全く見知らぬどこかの荒野だった。

「おい、大丈夫か?」
「ん…ここどこ…?」
「知らん。私も気が付いたらここにいた」
「ところでブルース、そのエプロンどうしたの?」
「何故私の名前を知っている…?」
「は?」
「答えろ」
「え、いや、だって、ブルースはブルースでしょ?」
「キサマ誰だ?!」
「………やばい。頭打った。絶対、頭打ったよこれ…」
「何をぶつぶつ言っている。最近の若者はコミュニケーションもとれないのか」
「コミュ障の人に言われたくないな…」
「何か言ったか?」
「え、いや!っていうか、その杖なに?上にカブくっついてるの??」
「そうだ。手頃な杖がなくてな。さっき拾った」
「へぇ〜……」

俺の記憶の中で何かの物語とリンクした。そうだ、これ、デーナと観に行ったジャパニーズアニメ映画だ。確か、魔法で老婆にされた女性が、魔法使いと恋に落ちて若返る話だったはず…。

「ってことは…ブルース!!そのカブ今すぐ捨てよう!そいつ危ないよ。物語の終盤でどっかの王子に変身するはず!!魔法使いが出てくる前に、ライバルは一人でも減らした方がいい!!」
「貴様は何を言ってるんだ?ん…?」

突然、ブルースが握っているカブの棒が震えだした。どこか遠くに放ろうと、足蹴りを繰り出した俺をひらりとかわし、棒が青年に変わった。あぁ、俺、この人知ってる…。若かりし頃のナイトウィングことディック・グレイソンだ…。ジーザズ!!

「やぁ、助けてくれてどうもありがとう!僕はディックっていうんだ。呪いでカブ男にされてたんだけど、愛する人に握られたら魔法が解けるんだ!ちなみに握ってたのは棒は棒でも」
「ああああああああっっっ!!!言わせないぞ!!駄目ッッ!!」
俺がブルースの耳を塞ぐと、男はにこりと笑って、穏やかに手を外してきた。
「ところで、そのエプロン可愛いね。あ、杖がわりに今度から僕の手を握ってね!何時までもどこまでも支えるよ!!」
「杖が男に変わった…」
「超危険人物にね」

さて、物語の冒頭からおかしな順序になり始めてるけど、これからどうなるんだろうか…確か屋敷が出てきて…わぁ…来た…屋敷っていうか…あれ、宇宙船じゃん…ジャスティスリーグって書いてあるし…積んだ…。赤いマントの人がふわふわ来ちゃったし、もー絶対あれだよ。魔法使いでしょ…

「やぁ、ブルース!!」
「う〜〜わ…凄い笑顔…なにこの人、顔面に太陽でも貼り付けてんの?」
「なんだ貴様、馴れなれしい。しかも飛べるとは…まさか、お前がこの山に住むという魔法使いか?」
「いや、僕はクリプトン人だよ」
「魔法使いじゃないのかよ!!」
「クリプトン人の能力が特別なので地球人からは魔法使いと呼ばれているんですよ」
「あんたは?」
「初めまして、僕はティム・ドレイク。この方の弟子であるコンという者の友人をしています」
「……関係性が長いな…そこはさ、魔法使いの弟子でいいでしょ」
「いえ、あくまでも僕は弟子ではありません。絶対に!!」
「なんかコイツ怖い!!」

とりあえず動く城っていうか、宇宙船に乗り込んだら、ピザ窯の前に銃を持った男が座っていた。…まさかこいつ、あれ、あれなのか?!

「さぁ、ジェイソン。民意投票で消されたくなければ宇宙船を動かすんだ」
「このクリプトン人、笑顔で怖いこと言いだした!!!」
「ちっ!!」

こいつピザ窯をふーふーし始めたんだけど、え、なに、これ。俺の知らない人なんだけど。ブルースと何の関係がある人なの!?



続かない。



2017/2/10


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